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―第64章― 千夏が11月を生き永らえる為の理恵の「薄昇」

「はい、そこまで。ソプラノもうちょい声大きくして」

 実行委員の子がヒステリックにあげた声で、私は我に返る。

 教室の空気は重く、静まり返っていた。

 窓の外ではオレンジ色の夕日が校庭の隅々まで長く引き延びていた。

 辺りの騒がしさから自分だけが切り離されたそんな感覚に陥って、隣にいる鈴が遠く感じた。


 放課後練習が終わり、クラスメイトが机を前に戻していく。

 私はその光景をぼんやりと眺めながら、教室をそっと潜り抜けて、下駄箱へ向かった。

 早足で過ぎ去る景色を横に、家へと歩みを進めていく。

 あの鏡を開けて、死者の都に飛んだ。

 早足で帰ったせいか、まだ4人は揃っていなくて、適当に辺りを歩き出す。

 発電所を通りかかったところで西川さんに会い、呼び止められた。

「今月のミッションは広場で行われる収穫祭の企画と運営だから、よろしく」

 無理矢理に5人分の資料を押し付けられて、行ってしまう。

 呼び止める勇気もなく、私はその背中を見つめるだけだった。

 渡された資料の一枚目に目をやると、今日から22日後の25日に実施されることや収穫祭の目的、昨年度のプログラムが詳細に記載されていた。

 新鮮な食材を購入できる直売コーナーや子供から大人まで楽しめる芋掘り体験など多彩なイベントの紹介。

「理恵。早かったな」

 手を掲げる隼人の後ろに飛鷹がついてきていた。

「これ、今月のミッションの資料って、西川さんが」

「了解」

 資料を2枚分手渡すと、隼人はじっくりと内容を確認し始めた。

 夏祭りの時のような人数目標はなく、運営と企画をやればいいというもの。

「せっかくやるんだったら、人集めたいよな」

 隼人の呟きに小さく頷きながら、自分だけが活躍できないのではないかという不安が募っていた。

 夕暮れの空気は冷たくなり始め、心が冷ついていく。


 翌日の土曜日、想空と鈴も加わり、収穫祭の詳細の企画を練り始めた。

「今年の収穫祭の目的は農業や自然への理解を深め、多くの人に楽しんでもらうことだから、それに沿った企画がいいよな」

 資料に目を通しながら、隼人の声に頷く。

「よくありそうなのは食べ比べとかかな」

「手作りクラフトは?」

「収穫された野菜の総選挙とかは?」

「トラクターでレースしようぜ」

「野菜クイズの迷路とか」

 次々と飛び出す企画案に必要な協力者の人数、用具についても話し合い、ノートに細かく書き留める。

 輪廻転生者を募る集会のついでで呼びかけたり、一人一人の家を訪ねて、協力者を募ったりなどしてなんとか必要数の協力者が集まっていく。

 その夜の黄昏空は深い藍色に染まり、遠くの山々の稜線がぼんやりと浮かび上がっていた。

 風は静かに木々の葉を揺らし、虫の声が優しく響く。

 収穫祭の準備はまだ始まったばかりだが、期待が込み上げている。

 夕暮れの光が最後の一筋となって空を染めあげ、私達の影を長く伸ばしていた。

「収穫祭、成功させようね」

 イベントごとでよく言われるその言葉に私の胸の中に疼いていた不安は、溶けていった。


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