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―第63章― 千夏が10月を生き永らえる為の飛鷹達の「推理」

 隼人を先頭に、抜け道に使ったと思われるこの会社に慎重に足を踏み入れていく。

 空気はひんやりとしていて、肌にまとわりつくような湿気。

 一歩、足を踏み出した瞬間ぐにゃりと足元が沈む。

 泥は靴を包み込み、重く纏わりついてくる。

「あの足跡、ハイキングシューズじゃないか」

 先頭の隼人から声が聞こえた。

 確かに、外側が四角で囲まれて内側に丸という形は似ているような気がする。

 隼人がその足跡をカメラに収める。

 ここが抜け道として使われたのはやはり間違いないだろう。

 今回は平均的な足の速さの方が参考になるという事で、理恵と想空。

「よーい。スタート」

 俺の掛け声で、少し早歩きくらいのスピードで2人が歩き出した。

 ほぼ同時到着で、18分53秒。

 息もそれほど上がらず、これなら怪しまれることはない。

 この道を使えば軽々と20分以内に宝石店に着くことができる。

 あとは、犯人を捕まえるのみだ。


「死神さん。犯人が分かったので、招集をかけて貰えませんか」

 隼人が死神の家の戸を叩き、助手の西川さんが出てきた

「死神さんは現在お取込み中だよ」

 死神は気怠そうにパソコンから顔を上げて、私達を家の中に招き入れた。

「いいよ。入れ入れ」

「強盗事件の件で、犯人と方法が分かったので…」

 目が見開いて、口元がわずかに緩む。

「マジか。早いな。明日の午後にでも集まってもらうようにしてくれ」

 死神の疲れた表情に大きな変化は見られないが、西川さんは助手として機能しているようなので、少しずつは負担が減っていくだろう。

「じゃあ、また明日来ます」


 翌日、学校を終えて、すぐに死者の都に向かった。

 臨時休業になっている宝石店前に着くと、隼人と想空の2人、容疑者である3人、水道会社の前で出会ったお爺さんが集まっていた。

「じゃあ、全員集まったことだし、真相を解明しちゃってください」

 西川さんがノリノリの笑顔を浮かべる。

「じゃあ、始めるとするか」

 隼人の言葉で5人が息づいた。

「まず、現場に残っていた足跡が新品のハイキングシューズであることから、町田さん、山本さん、小森さんに犯人が絞られました。ですが、3人とも目撃証言などのアリバイがありました」

 空気が静かに痺れていく。

「そこで、目に付けたのは小森さんです。他の2人は事件の一部始終のアリバイがありましたが、あなたのアリバイは事件前の一瞬だけでした」

「私はやっていない」

 火がついたかのように顔が赤くなる。

「確かに、正規の道を通ったら20分以上かかる。けれど、抜け道を使えば20分以内で着く」

 頬に血が昇り、熱を帯びた視線が泳ぐ。

 羞恥を怒りで塗り潰すかのように、彼は拳を震わせた。

「そんな抜け道なんかない。適当な事を言うんじゃない」

 表情を変えずに、隼人は続けた。

「いえ、あるんです。百聞は一見に如かずということで、小森さんの目撃地点にいる想空と理恵に実践して貰おうと思います」

 隼人が理恵と想空が映ったタブレットを掲げた。

「はい。えっと」

 理恵が緊張した面持ちでタブレットに向き合った。

「じゃあ、隼人。タイマーお願いします」

「よーい、スタート!」

 タブレット画面の半分が20分のカウントダウン、もう半分が2人の様子に切り替わった。

 ゆっくりとした足取りで目撃証言があった道をまっすぐ進んでから、あの水道会社の前に差し掛かったところで、忍び足で中に入っていく。

 西川さんはそのタブレットをじっと見つめ、瞬きすら忘れて、胸を高鳴らせている。

 その様子とは裏腹に、小森さんの表情は曇っていく。

 2人は順調に水道会社を抜けて、俺達の前に現れる。

「18分57秒。この方法を使えば、あなたのアリバイは成立しません」

「これが、あなたが使ったトリッ____」

 言い切る前にその男は逃げ出した。

「おい。待て」

 商店街の先の方向に向かって、駆け出す。

 妙に冷静に、商店街で買い物をしている人々の目線が集まっているのが伝わる。

「お前が6キロを20分で走れる奴じゃないと分かった時点で、俺に勝てる訳ないんだよ」

 服の裾を掴んで、思いっきり引っ張った。

 足がもつれ、小森さんはその場に転倒。

 西川さんが確保し、その場はお開きとなった。

「ミッションクリアだろ」

 張り詰めていた神経がぷつりと音を立てて解けていった。


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