↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
59/112

―第59章― 千夏が9月を生き永らえる為の想空達の「鍛錬」

 翌々日、僕が目を開けるとやはり1日が静かに過ぎ去っていた。

 窓の外は頼りなげな薄紅色の光が空を染めていたが、次第に黄金色へと熱を帯び、逆光の中でゆっくりと輪郭を取り戻していく。


 起き上がり、黄泉の都に向かうと、5人とも死神さんの家の前に集まっていた。

「このままじゃキツイだろうから、体力をつけないとだよな」

 隼人の言葉に頷き、隼人と飛鷹による地獄の体力教化鍛錬が始まる。

 と言っても、僕の胸にはほんの少しの好奇心が芽生えていた。

 凄まじい体力を兼ね備える2人がどんなトレーニングで体を鍛えているのかという事に凄く興味があった。

「このミッションだと持久力とスピードを鍛えるといいだろうな」

「じゃあ、走りまくるか」

 飛鷹が威勢よく叫び、隼人の呟きを掻き消す。

「それでもいいんだけど、インターバルの方が手っ取り早いんじゃない?」

 インターバルというのは、速く走ること、ゆっくり走ることを繰り返して、持久力とスピードの両方を鍛えるためのトレーニングらしい。

 公園の隣の運動場を貸してもらい、鍛錬が始まる。

 隼人が100mごとにマーカーコーンを置いていき、タイマーをセットした。

「じゃあ、一人ずつコースに着いて」

 トラックの中心から隼人、理恵、僕、鈴、飛鷹の順で走路に入る。

「よーい、スタート」

 隼人の掛け声で、5人は一斉に走り出した。

 100mを全速力で駆け抜けていく。

 両端の2人はまるで風のように速い。

 ダッシュとジョギングを5セットほど繰り返すと、息は切れ、疲労感が身体を包んだ。

 2人のトレーニングは単純でも簡単なものでもなく、予想以上に辛いものだった。

「一回、休憩するか」

 水道の水を飲んで、呼吸を整える。


 その後は、2人によるフォームの指導。

「腕は90度。呼吸は一定リズムで」

 飛鷹は根性論者のように厳しく、普段は優しい隼人もこの時ばかりは容赦がない。


 そんな鍛錬を続けていき、どうにか2人に引っ張られながら、3人とも15秒台で走れるようになった。


「よし。体力は大体付けられたし、またミッションに挑戦してみようぜ」

 鍛錬開始から20日目である9月27日、隼人が悪戯っぽく笑った。


 5人で発電所に入り、再びあの冷たい空気を感じる。

 中央のクランクに触れると、緊張感が走って、手が勝手に強張る。

「よしゃ、やるぞ」

 互いに声を掛け合い、自らを鼓舞。


 一斉に中央の柱に取り付けられたクランクを掴み、「開始!」という隼人の掛け声で、両手に力を込めた。

 重たいクランクがゆっくりと、しかし着実に回っていく。

 悲鳴のような音を立てて軋み、ずっしりとした手応えが腕に伝わる。

 10分間回し切り、隠し扉が開いた音が、疲労感が残った身体に響いた。

 飛鷹が鈴を、隼人が理恵を引っ張って、僕は単独で扉の先に向かって走り出す。

 肺が焼けるように苦しく、心臓が喉を突き破らんばかりに脈打つ。

 体内の秒針が正確に刻まれていく。

 力を精一杯振り絞り、足の回転を加速させる。

 安全装置に触れた瞬間、タイマーの音が鳴った。

 その音に束の間の達成感が胸を満たす。

 理恵がその安全装置に手を触れて、読み解いていく。

「カチャリ」

 発電所の中央の柱に貼り付いていた時計が動き出した。

「第3段階突入だ」

 飛鷹が咆哮を吐き、トランシーバーを掴んだ。

 それぞれ地図通りの場所に走り出していく。

 僕の担当は博物館の前。

 鈴が公園の前、隼人が商店街の前、飛鷹が一番遠い市役所の前、理恵が広場の前。

 設置されたレバーの前へ辿り着き、ポケットに入れておいたトランシーバーを取り出した。

「こちら想空、博物館前に到着。どうぞ」

 まるで、スパイ映画の一場面のように。

「ああ、こちら飛鷹。こっちも着いたぜ」

 僕の応答に苦笑しながら、息を切らす飛鷹から返事が返ってきた。

「よっしゃ。全員着いたから、早くレバーを引こうぜ」

「タイミング合わせてな」

 隼人が高ぶる飛鷹を抑え、声を揃える。

「せーの」

 掛け声とともにレバーを引き倒した。

「どうだ。いけたか?」

 隼人の声に興奮気味に「いけたよ」と返す。

 声が飛び交って、胸いっぱいの達成感が詰まっていく。


「ミッション達成。発電所の修理ありがとう、ってさ」

 発電所の影から西川さんが現れて、死神さんの家へ訪ねようとしていた僕達を止めた。

「死神さん、毎日忙しそうでさ。なるべく負担掛けたくないから」

 そう語る西川さんに見送られ、僕達は黄泉の都を後にした


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。