―第57章― 5人に無価値な時間を送らせない為の千夏の「勇気」
通知音が静かな部屋に響き、私は重い瞼を開けて、布団から起き上がった。
点滴針を抜いた傷はもうすっかり癒え、痛みはなくなっている。
スマホ画面には隼人からメッセージが届いていた。
「今月のミッションは発電機の修理。詳しい説明は死者の都に集まった時に聞けるらしいよ」
私にも、隼人にだって、どうすることもできないのに、そのメンバーに私が含まれていないことに胸の奥が締め付けられる。
それでも、あの5人はこんな私に「生きていい」と言ってくれた。
何もできない自分が5人に迷惑をかけるだけになるのが怖いのなら、何かを成せばいい。
5人が無駄な時間を私に費やしてしまうのが嫌なのならば、自分のこの時間を無駄にしないような何かを。
自分がこの期間が価値のあるものに変えればいい。
そう、開き直ってやる。
そんな力が自分にあるのかと疑いたくもなる。
でも、ムキになっていると思われても構わないから、ただ無価値にしないために向き合っていきたい。
「千夏。お見舞い来たよ」
理恵は律儀にも毎度、小説や映画のDVD、折り紙など、少しでも寂しさを紛らわせる何かしらのものを持ってきてくれる。
今日は、小さな女の子と黒猫が背を向けてベランダの塀にもたれかかっている優しい表紙絵が描かれた小説。
「素敵な言葉が沢山出てくるから暇なときにでも読んでみてね」
そう言って、ベッドの横にその本を置いていく。
「理恵。あのさ、今度、昔の教科書持ってきてくれない」
「え?いいけど、どうして」
理恵は手を止めて、少し驚いたように私を見る。
「みんなも受験期だし、私もみんなに追いつけるように時間を有効活用して、勉強しようかなって思って」
自分の行動原理の根底にある『価値』というワードを出さずに、みんなの意欲に影響された人間として言葉を紡いだ。
「そっか。何年生から持って来ればいい?」
理恵は深く訊かずに、頷いてくれる。
「うーん。中2で一時期行ってたけど、全然分かんなかったから入院し始めた小3からかな」
「分かった。今度探してみるね」
こう考えてみると、私とみんなの差は大きい。
中3になって、小3の勉強をしなくてはならない事実だけを側から見たら私は落ちこぼれだろう。
それでも、暇な時間は人一倍あるから、それを価値のあるものに変えたい。




