―第55章― 6人の決断の為の死神の「覚悟」
俺は口出ししないと言いながらも、気になって、たびたび千夏の病室を訪ねていた。
千夏はずっと下を向いたまま、看護師さんにすら笑顔を見せない。
そして、俺ですら心配になる程、顔色が悪かった。
あれから、5人は一度も訪ねてこない。
あの言葉を信じて来なくなってしまうほど、6人の絆は脆かったのか。
千夏の病室を彷徨っていると、ドアが勢いよく開いた。
「ねえ、千夏」
殴りかかるような勢いで、壁を薙ぎ倒すようなボリュームで、理恵が叫んだ。
その後ろには、他の4人も続いていた。
「千夏。私は千夏が私をどう思っていたとしても、千夏が大好きだよ。千夏も弱くて脆い、私と同じ人間だったのに、変な期待をかけてごめん。全然そのことを認識せずに、ずっと強い壊れない存在なんだって寄り掛かってた。千夏の弱いところを見た時、私はそれを見ちゃいけないと思った。だけど、そうじゃなかった。千夏だって、病気と闘わなくちゃいけないからって、弱くたっていい。強がらなくていい。そのままの千夏で十分すぎるほど、千夏は素敵だから」
言い切った理恵の口からは白く吐息が垂れていた。
「俺も。千夏が俺に話しかけてきた理由とか、難しいことはどうでもいいからさ。千夏に照らされちまったから、千夏に生きて欲しいんだよ」
飛鷹が理恵に続いて、荒々しく呼吸を立てた。
いきなりそんなことを叫ばれた千夏は驚きを隠せず、あんぐりと口を開けて言葉を失っていた。
彼女の瞳が少しずつ潤み、心の壁が崩れていく。
「クラスのみんなにとっての当たり前を凄いことのように褒めてくれて、俺は凄く嬉しかった。千夏は俺にその気持ちを教えてくれた。だから生きて欲しい。みんな、ただそれだけなんだよ」
「わ、私も、共感ばかりして人に合わせて、情けなくて、でも、その苦しさを頷いて聞いてくれて、嬉しかった。それが苦労を伴って運命に背くことでも、私は千夏に生きていて欲しいよ」
「僕も。千夏がいなくなったら僕はまた千夏に褒めてもらった好奇心を抑え込んでしまう。それに、また宇宙の話、一緒にしたい」
全員の言葉を通して、千夏は強張った表情を緩める。
みんなのその言葉と表情に、涙が溢れ出す。
「私はまだ生きててもいいのかな」
鈴が差し出してくれたハンカチを冷たく湿らせて、千夏は呟く。
「いいんだよ」
「生きててくれよ」
隼人と飛鷹が答えて、6人の間に微笑みが満ちた。
「私は苦しい時には弱音を吐くし、強くない。お見舞いにもらったゲン担ぎも綺麗事だって思っちゃうし、手術だって怖いよ」
小さくか細い声で千夏はそう呟く。
「人はどうせそんなもんだろ。美化して期待する方が悪い」
しんみりとした病室の空気に言い放った。
俺の声が静まり返った病室に響き、千夏がこちらを振り向く。
「クッ」
自分の感情なんて、もう分からねえ。
コイツを救いたいのか、救っていいのか。
もう、俺は分からなくなってしまっている。
なるようになってしまえ。
もう、こいつらに俺の死神人生、賭けてやるか。




