―第54章― 選択への恐怖心の共感の為の鈴の「慰撫」
私は人に流されてばかりで自分の意思がない。
人に意見を聞かれたら、必ず同調するし、欲しいものを選ぶにも相手に遠慮して、妥協する。
みんな自分らしく笑って、そのままの表情で楽しそうに。
羨ましい。
私は嫌われたくないからと、反対意見を言えず頷いてしまう。
都合がいいことの言い換えみたいなもので、「優しい」って言葉はよく向けられる。
チーム分けで組む約束をしていた子が他の子と組みたくなって、全く話したこともない子と組まされる時。
係決めでみんなが嫌がる係を押し付けられる時。
拒否して、どう思われるのかが怖くて、私は全部「いいよ」って答えてしまう。
それは優しさでも何でもなくて、ただの偽善で、臆病なだけ。
何の責任も負いたくなくて、安全地帯に居たくて、優しいふりをするだけ。
自分で選んだはずなのに、自分の意思で清々しく生きていく他人に嫉妬を感じる。
「鈴。そのペン、貸してくれない?」
「うん。いいよ」
自分の感情を隠すように明るく発した声。
その声が耳に響くと、心にずんと重いものがのし掛かる。
自分が都合よく扱われているのは分かっている。
だけど、このサイクルを抜け出す方法も分からないし、抜け出せたところで、どうなるのかも分からない。
一人は怖い。
惨めで孤独。
無理矢理にでも、笑ってそれを受け流す方が安全。
2年生の始業式明け、私はどうにか一人にならないように作り笑いを浮かべて、奔走していた。
「ねえ、鈴ちゃん?今日、一緒に帰らない?」
千夏はのらりくらりと色々なグループの出入りを繰り返す感じの子だった。
自分の意思で興味を持った子に話しかけて、その子と次々と仲良くなっていく、そんな子。
私はそれをずっと羨ましがる側の人間だった。
「いいよ」
そんな子は自分の意思を持たずに、人に合わせる子を嫌うと思っていたから驚いた。
「鈴ちゃんに問題です。何で私は不登校だったでしょう?」
何を思い立ったのか、千夏はクイズ口調でみんながタブーと扱っていたことを出題してきた。
「え、なんだろう」
親の都合とか虐めとか、色々な単語が思い浮かぶが、どれもマイナスでやはり私は怖くて、口にできない。
「正解は病気でした。小3から去年まで病気で入院してたんだよね」
くるくるっと左足で弧を描くように回って、「でも、もう元気。元気」と、桜の花弁のような華やかな笑顔を浮かべた。
でも、その目は心なしか寂しさを帯びていて、千夏は怖くなったのか、ぎゅっと私を抱きしめた。
心にじんわりと広かった温もりの感覚を今でも鮮やかに覚えている。
暖かくて、気が抜けて、その瞬間だけは自分が偽物じゃないと思えた。
他人に対して、初めて安心感を抱いた。
これまで抱えてきた焦燥感と不安が少しずつ溶けていく。




