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―第47章― 千夏の夥しい姿を目の当たりにした為の理恵の「狼狽」

エレベーターが静かに上昇を始め、表示板の数字が一つずつ増えていく。

密閉された空間に4人の小さな話し声と手元の紙袋がかざる音だけが響いていた。

4階に到着して、扉がゆっくりと開く。

ナースステーションから聞こえる電子音とワゴンが床を転がる微かな音。

廊下には独特の清潔すぎて少し息苦しくなるような匂い。

隼人が受付で面会票を記入し、ゆっくりと病室に向かっていく。

コンコン。

隼人が一ノ瀬千夏と書かれた名札が掛かっている病室の扉を叩くが、いつもの「入っていいよ」という柔らかい声が聞こえない。

「寝てるんじゃないかな」

隼人と顔を見合わせると、飛鷹が前に出た。

「千夏。開けるぞ」

扉を開けた先に広がっていたのは血飛沫だった。

病室という白く高潔な場所にそぐわない真っ赤な夥しい血飛沫。

千夏はそのベッドの横で、小さく蹲って倒れている。

肩で荒く息をしているが、まだ脈はある。

「おい。千夏」

隼人が肩を叩いて反応を見るが、荒い呼吸を繰り返すだけで何か答えることはない。

「私、病院の人呼んでくる」

鈴が病室を出て、走っていった。

その間、私は彼らの後ろで何もできずに立ち尽くしていた。


数分後、お医者さんと数人の看護師が駆けつけて、千夏をストレンジャーに乗せ、集中治療室まで運んで行った。

その後、千夏のお母さんも駆けつけて軽い状況説明。


千夏はなぜ、あんな行動をしたのか。

点滴針を自分で抜くことのリスクは理解しているはずだし、考え無しにそんな突飛な行動をするとは思えない。

それをさせてしまうほどの苦しみ。

それに私は気づかず、自分の苦悩だけを押し付けてしまっていたのか。

嫌な想像が思い浮かび、頭を激しく振って、その想像を消し去る。


数時間後、手術室の扉が開き、看護師さんが千夏のお母さんに早足で駆けて来た。

「娘さんの状態は心配ないとの事です。そして、先生が病室でお呼びです」

何もなかったことにふと安堵するが、それでも夥しい予感は拭えない。


そこに真っ黒く、闇が現れた。

死神。

「一ノ瀬千夏の生死に怪しい信号が送られてきたから、死者の迎えのついでに様子を見に来たんだよ」

見た目の怖さに変わりはないが、初見の時とは違い、物腰が柔らかい。

「千夏が点滴針をおそらく自分で抜いてしまって、その理由はよく分かっていないんですけど…」

隼人が口ごもりながら説明する。

「そうか。どうせ罪悪感とかそういう類いのものだろうな」

そんな月並みな凡人の感情に千夏の気持ちを言い換えないで欲しい。

いや、そういう自分こそ、千夏に期待を押し付けてしまっているのではないか。

そのくだけた口調を変えずに、死神は淡々と話す。

後ろに控える飛鷹は死神に掴みかかる様子はなく、ただ黙って死神の言葉を聞きながら何かを固めたように拳を握りしめていた。

千夏の母親はズボンの横のラインに携えた手を震わせながら、病室から戻ってきた。

「みんなと話があるって」

震えたか細い声で告げられて、私達は千夏の母親には見えない死神と共に、千夏の病室に入った。


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