―第39章― 千夏が7月を生き永らえる為の鈴の「心躍」
「何で、浴衣着てるの?」
洗濯物を干していた母が後ろを振り返って不思議そうに尋ねる。
「ちょっと早めだけど、夏祭りやってる所があって、」
動揺しながらも、一応誤魔化せたはず。
死者の都も一応、夏祭りをやってるところではあるし、嘘ではない。
私の言葉を信用して、作業を進めていく母に罪悪感を覚えながらも私は外へ出た。
波に揉まれる時間を抜けると、景色が晴れ渡り、祭り会場の入り口に着く。
「あ、鈴。浴衣着てきたんだな」
4人ともラフな私服。
自分だけが張り切っているみたいで顔が少し紅潮する。
お祭りと言えば、浴衣だからなんて考えて着て来なければよかったと後悔。
「お客さん、結構な人数入ってるね」
焼きそば屋さん、りんご飴、わたあめ、ベビーカステラ、射的に輪投げ。
沢山のお店が並んでいて、苦労してやっとお祭りを開催させた嬉しさが込み上げる。
「俺達は7時から入ろうか」
隼人の提案に乗って、店番を手伝ってから7時丁度に会場に入った。
頭上にあるディスプレイの入場者人数のカウントが増えていく。
ネクロポリスと死者の都のバトルを面白がり、企画としてネクロポリス側のテレビ局が乗っかっていた。
状況が分かりやすくていいが、これは大っぴらに面白がられることを許可するほど、ネクロポリスに勝利の自信がある証明でもある。
「まずは、腹ごしらえからだろ」
飛鷹はいち早くボリューミーな焼きそば屋へ走って行く。
人数分の5パックと予備の1パックを買って、隣のりんご飴屋さんに移動。
「わっ」
白く細く綺麗な指が私の肩に触れた。
「やっほ。千夏だよん」
桜の花弁があしらわれた着物を身に付けた千夏。
「隼人が死神さんにこのお祭りに来れるようにお願いしたら今日だけ特別に許可してくれたんだよ」
隼人が照れたように笑みを浮かべて、頭を掻く。
「せっかく隼人だけで進めたのならドッキリにしちゃおうって思って、ここで待ってたんだ」
私の肩にもたれかかって、自然と頬が綻んでしまうキラキラの笑顔を辺りに振り撒く。
太陽のように眩しい。
わたあめ、射的、輪投げ、金魚すくい、ヨーヨー釣り。
会場を埋め突くほど設営された屋台を時間いっぱい遊びまくって、足は重たく、へとへとになった。
だけど、その疲れは不思議と嫌じゃなくて、終わらないで欲しいと願ってしまう。
足は痛むのに、このままずっと、この瞬間に留まっていたい。
千夏の弾けるような笑顔が提灯に照らされる。
夜は徐々に更けていき、祭りもクライマックスに差し掛かっていく。




