―第37章― 千夏が7月を生き永らえる為の鈴の「御守」
七月のこの空は、誰かの深呼吸のように青く澄み渡っていた。
通知音が鳴り、スマホを開くと隼人から6人のグループチャットにメッセージが入っていた。
「今月の、7月のミッションは黄泉の都主催の夏祭りの来場者数を隣の国、ネクロポリスに勝つことだって。祭りまであと17日しかないから、なるべく早めに動きたいんだけど、今空いてたら来て欲しい」
暇だからと外に出ていた私は、足早に家へ戻り、あの鏡で死者の都へ飛んだ。
波の中で掻き回されるような、車酔いした時のようなそんな感覚。
その波から解放されて目を開けると、目の前は幼い子供達が遊ぶ公園だった。
「隼人、探しに行かないとな」
公園に背を向けて歩き出そうとすると、後ろから声を掛けられた。
その女性は、滑り台で楽しそうに遊んでいる男の子を指して、「この後予定があって、ちょっとだけだから見ててくれない?」
そう言って、呼び止める間もなく行ってしまった。
仕方ない。
子供と接するのは苦手じゃないし、少しだけと言っていたし、ここに居るか。
その滑り台に歩み寄って、男の子の前にしゃがみ込む。
「お母さんは予定があって行っちゃったから、お姉ちゃんと遊んでくれる?」
そう微笑みかけると、笑ってくれた。
子供は複雑じゃないからいい。
微笑みの裏に隠した妬みとかそういう汚いものがないから、嫌な想像をせずにいられる。
追いかけっこやかくれんぼ、沢山遊んで、さすがに疲れ果てた。
預けられてから3時間以上が経っているが、まだお母さんは顔を見せない。
この子の元気の有り余る姿に感心しながら、肩で息をして呼吸を整える。
「あ、鈴」
後ろを振り向くと、自作のチラシを配っている隼人がいた。
「この子のお母さんに預かっておくように頼まれて。そのお母さんがなかなか戻って来なくてさ」
「おお。そっか」
抱えるほどの量のチラシをベンチに置いて、その男の子を高く持ち上げる。
無邪気に笑って、頬を綻ばす。
なんだか隼人が小さな子供のように見えて、可愛いと思ってしまった。
「ごめんなさい。思ったより予定が長引いちゃって」
大急ぎでさっきのお母さんが駆けてきた。
「いえ。この子もいい子にしてくれてたんで、大丈夫でしたよ」
お母さんに連れられて、その男の子は公園の出口へ進んでいく。
去り際にチョコリと後ろを振り返って、小さく手を振ってくれた。
その姿がとてつもなく愛おしかった。
「お姉さんたちもそこに行くからさ。よかったら、25日の夏祭りよかったら来てくれるかな」
ちょっとした思い付き。
子供だからすぐに忘れちゃうかもしれない。
でも、ちょっとした願掛け。
もし来てくれたら、お祭りが更に楽しくなるかな、なんて。




