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―第29章― 千夏が6月を生き永らえる為の理恵達の「手当」

「大丈夫?」

 容態を見ると、少し露出していた足首の部分にアリに噛まれたような跡が残っていた。

「どうしよう…」

 倒れた隼人を前にオロオロしてしまう。

「2回刺されたらヤバいし、一回運ぼう」

 飛鷹の指揮で、隼人を厳重に寝袋の中に入れて運んでいく。

 筋肉の線がくっきりと見えて、ずっしりと重い。

 船に戻って、備えてあった氷水で患部を冷やす。

 確か毒を搾り出すのはいけなかったような。

 微かで不確かな記憶を頼りに手当てをしていく。

 そんな記憶に頼りきりなのは怖い。

 もし、間違っていて隼人が取り返しのつかないことになったらって、考えると手が震える。

 でも、今はその微かな記憶に頼るしかない。

 知識のありそうな想空が帰ってきてくれたらいいけど、あの様子だと私達が船に戻ったことすら気づいていないだろう。


「私、想空に連絡しようか?」

 鈴が、あわあわと気を動転させながら、スマホを取り出して電話を掛けた。

 だが、5コールほどしても想空は出ない。

「あんな仲間のこと考えずに突っ走っていく奴なんか気にしなくていいだろ」

 理性のたかが外れ、飛鷹は自分の鞄を放り投げた。

「それはそうかもしれないけど、知識的に私じゃ適切に手当て出来ないから」

 確かにあれは怒りを買うのも無理はない。

 だけど、そんな感情よりも今は最善策を取るべきではないのか。


「ねえねえ、さっきあそこにスローロリスがいたよ」

 隼人はあんたが走ったせいで怪我をしたのに、未知発見の報告をあの無垢な笑顔でしてくるんだから、飛鷹の怒りも増長する。

「お前、なんで勝手に走り出すんだよ。そのせいで隼人が…」

 胸ぐらを掴んで殴りかかろうとする。

「まだ死んでねえからな」

 チャックの隙間から顔を出していた隼人が苦笑気味に眉間に皺をよせた。

「多分、この跡だとパラポネラじゃないかな」

 危機感なく、ただ未知を追うように傷口を見つめる。

「大丈夫。理恵の処置は合ってるよ。傷口は絞らずに冷やして…」

 想空の指示に従っていくうちに、隼人の眉間に寄っていた皺が心なしか薄くなったように見えた。



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