―第28章― 千夏が6月を生き永らえる為の理恵達の「奔走」
千夏が毎日のように死の淵に立たされているとはいえ、やはり自分が死ぬ可能性があると思うと恐怖を抱く。
まず、その男性がその島に行ったとは限らないし、行ったとして1週間以上経って帰ってきていないのに、生きているのだろうか。
不安な気持ちは広がっていくばかりだが、行動する他なく、私は待ち合わせ場所に向かう。
全員が集まると、あの変な鏡を開いて、死者の都へ飛び込んだ。
「死神が島に向かう用の小舟を用意してくれているらしいから、まずそこに行こう」
隼人の言葉に従い、震える手を抑えながらついて行く。
家の戸を叩くと、死神が書類を抱えながら出てきて、港の方まで案内してくれた。
「この船だよ。時間が足りなくて手動の小舟になっちまったが、設計には問題ないから」
その船はこじんまりとしていて、5人で入るのがやっとという大きさ。
10日間という短い期間で作らせたとはいえ、さすがに小さい。
そう思いつつ、死神の表情に疲労が滲み出ていて、何も言えず乗り込んだ。
「よろしく頼むな」
死神に手を振って送り出され、体力自慢の飛鷹と隼人が櫂を漕ぎ、水の中を進んでいく。
櫂が水を捕らえるたびに飛沫が空へと舞い上がる。
朝の光を受けて無数の滴が空中で弾け、星屑のように煌めく。
「この港からシルヴィア島までは6キロくらいだから、1時間くらいかな」
鈴がスマホを使って調べていた。
「走れば30分くらいで着く距離なのに、船は結構時間がかかるんだな」
櫂を操りながら雫を全面に浴びている隼人が呟いた。
50分ほどすると、地平線の先にジャングルらしい雰囲気を醸し出す陸地が見えてきた。
頭は漆黒、体は鮮やかな橙色の鳥が島の周辺を飛び回っている。
「ズグロモリモズだよ」
想空が声を上げて叫ぶ。
「それってどんな毒を持ってるの?」
「捕食する昆虫から毒を受け取る生物で、1㎎でも傷口や体内に入ると死亡するほどの威力があるんだって」
未知に出会えた事への喜びだろうけど、目を輝かせて、こんな恐ろしいことを言うんだからある意味サイコパスだ。
「まあ、みんな肌は隠すような服を着ているし、大丈夫だよね」
自分の不安を拭い取りながら、みんなを鼓舞するべく鈴が呟く。
それから10分ほど小舟を漕ぎ、私達は寝袋と救急箱を持ったまま島に上陸した。
木々は空を覆い隠すほど生い茂っていて、葉の隙間から差し込む光はスポットライトの様に際立って眩しく感じた。
湿った空気には甘い果実と土の匂いが混ざり合い、遠くから名も知らぬ鳥の鳴き声が聞こえてくる。
まさにジャングルそのもの。
「モウドクフキヤガエル」やら「カバキコマチグモ」やら。
想空は大声で叫んで、島の中へ一目散に走って行く。
有毒生物が沢山生息していることは知っているだろうに、初めて目にするジャングルに惹かれたのか、物怖じせずに行ってしまう。
「危ないぞ」
隼人が想空の背中に呼び掛けるもそのまま走っていき、想空を追いかけることから始まる羽目になった。
「なんで勝手に走り出すんだよ」
飛鷹が文句を言っているのが聞こえる。
まあ、その通りだよな。
有毒生物がいるんだから慎重に進まないと一大事になる可能性もある。
それに、急がなくても有毒生物逃げてくれたりはしない。
しかし、想空はそんな理屈で耐えられない。
未知に無意識に向かって行ってしまう性分。
「痛っ」
その時、一番前で想空を追いかけていた隼人が呻き声を漏らして倒れた。




