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―第23章― 千夏が5月を生き永らえる為の理恵&鈴達の「奮情」

 理恵

「下界にある程度の希望を持っているみんなに理解して貰えるかは分からないけど、少しいいですか」

 不自然極まりないメッセージ。

 引かれてしまうか、それが少し怖い。

 心臓の奥に突き刺さったような、折れてくれない痛みを微かに感じる。

 もし引かれても、それならそれで仕方ないと捉えるべき。

 このまま何も言わなかったら、いつも通りグジグジして思い悩む悪循環。

 それなら引かれる事を覚悟で言った方がいい。

 でも、覚悟とは確信のない物質で、覚悟したと思っても次の瞬間には揺らいでしまう。

 怖いという感情が心の中を漂うように彷徨っていき、掻き回す。

「理恵。言っていいよ」

 千夏からのメッセージ。

 ほっと吐いた息が鼓膜に響く。

「下界の決定的な利点は無いと思う。多少の違い以外、本質的に下界と死者の都はほぼ同じだから、死者の都に暮らす人々の考えを全面的に変えるのは難しいと思う。全面的に変えられた方が後味はいいし、後の効果はあると思うけど、大きな物を果たすのに綺麗事ばかり追った所で、手に入るのは失敗というか、」

 頭の内に降り注いでくる言葉のままに文字盤をタップした。

 そこまで打ち込んだところで手が止まる。

 結論が出ない。


 感情は難しい。

 私がこれまで真摯に向き合って来なかったせいか、枝に絡めつく蔓のように釈然としなくて掴めない。

 自分は何をすれば輪廻転生希望者が増えると思うのかに焦点を当てて、思考を深めればいい。

 このまま、考え無しに行動をしたところで結果はついてこない。

 死者の都の人々の気持ちを重視するのではなく、千夏を生き永らえさせる方を重視するべきだという事。

 死者の都の人々の感情を翻すような大きな利点を探すよりも、この世界の小さな機微程度の魅力を寄せ集めていった方が現実的だという事。

「うまく纏められなくてすみません。私は大きな利点を探していくよりも、世界の小さな機微程度の魅力をかき集める方が現実的だと思います。確かに小さな機微で揺らいだ心は簡単に目移りしてしまうから、死者の都の人々に誠意は尽くせないんですけど」

 自分の文章とは思えないほど汚い仕上がり。

 それなのに、打ち終えた心はすっと心地よく乾いていた。

 複雑に絡まっていた蔓が解け、凪のように澄んでいる。


 鈴

「確かに大きな利点を見つけるのは死神と交渉するとかしないと得られないし、その希望は薄い。その反面、小さな利点なら楽しかった記憶を集めていけばいいし、確かに現実的だな」

 隼人が理恵の意見に賛同して、話が進んでいく。

「でも、その小さな利点って死者の都と現世って大差ないのにそんなにあるかな?」

 想空から反対意見が送られてきたことに少し安堵する自分に嫌気がさす。

「死者の都と変わらないのも良い所だろ。輪廻転生を拒否ってる人は死者の都がいいから、ほぼ変わらないってことを言えば折れるかもしれないし」

 飛鷹にしては切れた意見。

「そうだね。それで良いんじゃないかな」

 どうせ採用されるのなら、希望を持ってしまうから反論はもういい。

 大げさにため息をつき、チャットでのやり取りであった事に救われたと思った。



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