―第17章― 千夏達と楽しい時間を送る為の鈴の「探訪」
東海道新幹線から降りて、横浜駅を経由し、北鎌倉駅に到着。
ホームには観光客のざわめきが漂い、カメラを構え、地図を広げる多くの人々が行き交っていた。
駅前通りには色とりどりの練り切りが並び、小民家カフェからは抹茶の香りが漂う。
「まずは千夏の親戚だっていう家に向かって、車出しをお願いすればいいんだよな?」
地図アプリが表示されたスマホで隼人がその家の場所を指さす。
「うん。事前にお母さんが伝えてくれてるから心配ないと思うよ」
隼人の先導について行き、千夏の親戚の家に辿り着いた。
家から出てきた男性は見るからに優しそうな雰囲気を纏い、車の運転を買って出てくれた。
セダンのメタリックグレーの車。
運転席に乗ったおじさんは腕を窓の外に出して、ハンドルをもう片方の手で掴むその姿がとても似合っていた。
千夏とは3年ぶりにあったと言って、話が大きく弾んでいた。
理恵が校外学習の自作のしおりを見せて、経路をしどろもどろに説明する。
それにうんうんと深く頷いて、にこやかに笑う。
車はゆっくりと鎌倉の町並みを滑るように進んでいった。
古い瓦屋根の家々が立ち並び、軒先の風に揺れる暖簾が見えてくる。
車のタイヤが石畳を踏むたびに、微かな振動が足に伝わってきた。
車を駐車場に止めると、おじさんは「私はもう見飽きちゃったから車の中で待ってるよ」と私達を見送った。
友達同士の旅に水を差すまいと、気を使ってくれたのであろう。
感謝の意を表し、私達は車を後にした。
浄智寺の参道に足を踏み入れると、左右に咲き誇るツツジが彩りを添え、山奥には青紅葉が広がっていた。
陽光が木々の隙間から差し込み、苔むした石畳を柔らかく照らす。
青葉に包まれた趣のある建物。
古びた木材の温かみが辺りに漂っている。
木々の懐かしい香りを吸い込むと、清々しい気分になった。
「理恵、どこ回ってく?」
隼人が浄智寺を提案した理恵に希望を訊ねる。
「えっと、布袋尊と甘露ノ井と三世仏がそういう効果があるって…」
そういう効果とはミッションの勝利や成功、開運と千夏の健康の事を指す。
「ok。じゃあ、そこに行こうか」
隼人が先へと歩き出す。
「待って。ここで写真撮ろ」
タブレットの中の千夏が響かない声で叫んだ。
隼人を止めなくては。
「理恵ちゃん。ちょっと、タブレット持ってて」
理恵は戸惑ったままタブレットを受け取って、私は隼人を追いかける為に走り出した。
「隼人。千夏が写真撮りたいって」
軽く息を切らしたが、どうにか追いついた。
「わかった。次から確認して進もうか」
「うん。ありがとう」
「俺が1番、セルフタイマー速く行けるだろ」
目尻を下げる飛鷹のスマホを使って、写真を撮る。
飛鷹、隼人、想空、千夏、私、理恵の順に並んで、心からのスマイルがレンズに映り込んだ。
理恵のリクエスト通り、葛原岡神社を経由して、源氏山公園を到着点とするハイキングコースに入る。
体力が有り余っている飛鷹と隼人と想空が先に行ってしまい、運動不足の私達は下の方で息を切らしながらついていく。
「ファイト!もう少しだよ!行けるよ!」
弱音を吐いても、変わらずに声を掛け続ける千夏に励まされながら、険しい山道を進む。
「ほら、葛原岡神社ってのぼりが出てるよ。あと、もう少し。頑張って」
ようやく中間地点である葛岡原神社に辿り着いた。
男達3人はベンチに座って、隣の自販機で買ったジュースを飲んでいる。
「遅かったな」
「悪かったね。2人とも頑張って歩いてきたんだからそんな嫌味言わないの」
飛鷹の言葉に、千夏が口をすぼめて拳を振り上げる真似をした。
「お揃いで御守り買おうぜ」
飛鷹が軒先に並んでいる御守りを手に取る。
「それ、縁結びだぞ」
「え!マジか。いや、気付かなかっただけで、そういうんじゃないからな」
顔を紅潮させて、次々と言葉を並べながら必死に取り繕う。
「分かった、分かった。それ買おうな」
隼人が子供をあやすみたいに、優しく飛鷹の頭を撫でる。
「揶揄うなよ。ほんとに違うからな」
隼人の揶揄いに乗じて、6人とも縁結びの御守りを購入した。
「飛鷹が恋人欲しいって言うからね」
千夏も隼人に便乗して、飛鷹を揶揄いまくっている。
勢いのまま行動する姿ばかり見てきたから、飛鷹の事を乱暴な性格と思っていたけれど、恋愛事の話で顔を真っ赤にして照れていて、意外とお茶目で、可愛かった。
ハイキングコースの終着地である源氏山公園で一休みして、銭洗弁天に向かう。
そこにはお金を洗うと金運が上がるという逸話もあり、それになんと言っても楽しそう。
ザルセットを5人分購入して、銭洗の池に移動した。
ちなみに、千夏から託された千円札は理恵が洗う事になっている。
ザルの中に硬貨や御札を入れて、軽く水に浸す。
「わっ。御札、破けた」
隣で飛鷹が勢いよく水に浸したせいで使えなくなった御札を嘆いている。
「破れても銀行で取り替えてもらえるよ」
反対隣りの想空は慎重にお札を水に浸していた。
性格が出るものだな、なんて思いながら、私も慎重に水に浸す。
「そうなん。いや、そうだとしても、洗ったご利益失うじゃねえか」
「飛鷹。そういうの信じなさそうなのに、今回はこだわるんだ」
「日頃は信じなくても、せっかくお参りに来たんだから、こういう時くらいは信じたっていいじゃん。それに死神がいたんだし、神も多分存在するだろ」
「確かに。じゃあ、他に持っている御札洗えば?」
広げた財布には千円札が2枚とギリギリ。
予備があるようには到底思えなかった。
「予備持っていけって、連絡しといただろ」
隼人が呆れつつ、飛鷹は反省の素振りを見せずに頭を掻く。
「面倒臭くて。頼むから、誰か貸してくれよ」
「仕方ないな。理恵、私の千円札渡していいよ。お金はちゃんと後で返してね」
その後は銭洗弁天の境内をゆっくりと参拝しながら、写真を撮ったり、池の周りで遊んだりして楽しい時間を過ごした。




