―第14章― 問題解決の為の理恵達の「思案」
「ごめん。理恵がせっかく計画してくれていたのに、いきなり止めにするって言って」
千夏は小さく俯いたまま、布団から目を離さない。
「何があったの?」
鈴がゆっくりと小さな子供に尋ねるように訊いた。
「最初からちゃんと考えれば分かることだった。予想不可能じゃないのに、見落としてた」
みんなをがっかりさせないようにか、千夏はゆっくりと躊躇いがちに話し出す。
「だから、一体何があったんだよ」
飛鷹の低く押し付けるような声に、向けられる張本人でもないのに罪悪感が募った。
「病院の外出許可が下りなかった」
申し訳なさそうに首を垂れる千夏はめっきり落ち込んでいるのが見て取れた。
「そんなの、脱走しちゃえばいいじゃないか。余命は死神に保証されてるんだから危険はないだろ」
飛鷹はそう言うけれど、千夏の顔は晴れない。
「確かに危険はないとしても、お母さんやお医者さんに迷惑かけちゃうし…」
こんな時くらい、人の心配なんか考えずに突っ走ったっていいと思うのに。
だけど、人のことを必要以上に気遣って、芯が強くて融通が利かなくて、それが千夏のいいところだとも強く実感している自分にその言葉は言えない。
「せっかく病状が安定してきたのに、外に出ることもできないのか」
隼人の呟きに千夏が掠れた声で続ける。
「お医者さんとしては私の回復は原因不明だから、いつ急変するのか分からないって見てるんだよ」
寂れた病室に言葉のない時間が過ぎていく。
千夏を外に出させてあげたいと思っても、どうにもできないやるせなさと不甲斐無さが、体内を巡り、飛び跳ねていた気持ちは嘘のように下を向いてしまう。
「大丈夫だよ。私は」
ぎこちなく、口元だけが上がった笑み。
手術の前、再発時。
その見慣れてしまった笑みは、千夏が強がっていることの証明。
胸の奥で波打つものを必死に押しとどめながら、崩れそうな堤防に手を添える苦痛の叫び。
どうしたらいい。
ただ、千夏に何の後ろめたさも感じずに心の底から楽しんで欲しい。
それすらも、難しいのか。
「オンラインは?前に海外の人とオンラインで繋がって話したんだ。結構、臨場感があったよ」
想空が暗く落ちていた室内に光を撒いた。
「それ、早く言えよ」
飛鷹の、賞賛よりも先に呆れが出てしまう呟き。
「そうだな。それが最善だな」
という隼人の呟きと、千夏の表情の変わり様から満場一致でその案に決定。
だが、即問題が発生した。
「だけど、タブレット端末が2台必要で、1台は家にあるんだけど、みんなは持ってる?」
そう、想空の問いかけによって発覚したタブレット問題。
スマホでもオンラインを繋げることはできるけど、画面が大きい方がいいとの事。
だが、想空以外にタブレットを持っている者はおらず、唸っていた所、向かいのベッドのおじさんが、「映画鑑賞用のタブレットをその日だけ貸してやるよ」と言ってくれた。
多少のアクシデントはあったものの、鎌倉校外学習は実現できそうで、私は胸を撫で下ろした。
準備が刻々と進んでいく。
校外学習という名目通り、班長や時計係を決めて、非日常に心を躍らせる千夏の表情が微笑ましい。
「タブレット係は理恵と鈴ね」と、千夏が任命。
「いやいや、大変だろうし、班長の俺が持ってくよ」
隼人は私が作った計画表を入念にチェックしていた。
「隼人は忙しくなりすぎちゃうから。それに、飛鷹と想空は夢中になって落としそうだからね。女子トークもできるし、2人ともよろしくね」
鈴と顔を見合わせて、小さく頷いた。
行程表と各名所の見どころ、料金などを記載した簡易的なしおりを5人に配布。
この班の中のそれぞれのポジションが確定しつつあった。
隼人はみんなを纏めるリーダー役。
飛鷹は行動力と勢いでみんなを引っ張る役。
想空は好奇心旺盛によって得た知識を振る舞う知恵袋役。
鈴は揉め事など時に仲を取り持つ潤滑油役。
そして、自分には発言力はないけれど、想空同様、知恵袋役だろう。
寄せ集まりだったものが、メンバー同士の性格が垣間見え、信頼関係が深まってきている。
人前にしゃしゃり出るのは、このメンバーでも緊張と恐怖が降り積もる。
けれども、私にとって太陽である千夏の力になりたい。
この集団の中での私の存在意義が欲しい。
そう、強く思った。




