―第107章― 大切なものを失わない為の理恵達の「開戦」
遊び疲れてぐっすりと眠った翌朝、私は外の騒然とした気配で目を覚ました。
隣の5人は未だに気持ちよさそうに寝ていたが、西川さんと死神さんの布団は部屋の隅に綺麗に片付けられていた。
机の上に地図を広げて状況把握に努めている。
「あ、すみません。うるさかったですかね」
西川さんが申し訳なさそうに頭を掻く。
「いや、大丈夫です。敵軍が攻めてきたんですか?」
「ああ。詳細はまだわからないが、今回は前回とは違い、大軍勢みたいだな」
溜め息を吐きながら、苦笑する。
詳しい状況が分からないまま、大軍勢に取り囲まれている。
これはとても不利な状況だ。
焦燥が募り、額に汗が滲んでいく。
「軍の詳細、家の窓から見てくるとかは?」
記憶の断片を拾ってどうにかこの状況でも救い出せる手はないかと紡ぎ出す。
「出来なくはないけれど、俺は顔が知られているから危険が大きいな」
「あの、私なら」
陽菜さんが手を挙げた。
確かに、一市民の顔まで把握されている可能性は低い。
「じゃあ、頼んだ」
陽菜さんをその窓の手前まで促す。
踏み台に乗り、ゆっくりとその窓に歩み寄る。
その瞬間、覗き込んだ陽菜さんの動きが失われた。
「あの、これって。本物の神なんじゃ」
覗かれた窓から見えた切れ端。
そこには、死神さんとは絶対的に別物の威光を纏う、なんとも言えないあの鏡の色をした生物がいた。
瞬く間に、その神は身体を全く違う形に変容させていく。
たてがみを逆立たせて威嚇するライオン。
こちらの城の様子を探る為に上空を颯爽と飛び回る鷹。
大きな足音で地面を震わせる象。
くねくねと器用に人の隙間を通っていく蛇。
辺り一面に大きな羽を広げて自分の権威を見せつけ、牽制する孔雀へと。
本物の神。
それが、今、ここにいた。
「どうだった?」
いきなり死神さんに声をかけられて、私は思わず肩を跳ね上げた。
「あれって…」
「そうだな。あれは本物の神だな」
気がつくと、千夏達5人も死神の後ろに立っていた。
その表情は、未曾有の危機的状況だというのに今までに見たことないほどの笑顔。
滾りを抑えきれずに拳を振るわせ、口角を吊り上げて不敵な笑みを浮かべている。
「神敵、か」
自嘲気味に呟き、その声はこの空間に溶けていく。
「今更、どうでもいいな」
無根拠の自信。
神が目の前に敵として立ちはだかっているのに、なぜか勝てる自信があった。
そう、心の底から信じてしまうほど、私の仲間は最高で、奇跡を簡単に起こせるような笑顔が解き放たれていた。




