―第106章― 大切なものを失わない為の理恵達の「寸暇」
翌日も敵軍が訪れる兆しは見えず、野原の静寂が朝を出迎えた。
風に揺らされて、枯れ草が他方になびく。
久しぶりの長閑で平和な空気。
「いつ、攻めてくるかわからないし、作戦会議でもするか?」
布団を端へ片付けていた私達に隼人が訊く。
「作戦なんてその場と気合で何とかなるだろ。それに、攻めてくる敵の状態すらわからない状態で考えたって、上手くいかないだろ」
朝ご飯を大急ぎで口に詰め込んでいる飛鷹。
食べながら話すから、僅かな食糧が床に飛び散っている。
「一回、お前は食べ終わってからな」
隼人が笑いながら、次の言葉を制止した。
「理恵は作戦とかある?」
隣で布団を綺麗に畳んでいた千夏が、いつの間にか真横にいた。
「うーん。ちょっと敵軍の様子が不透明だから難しいかな。考えられなくもないけど、仮定の理論だから、不安になりすぎて士気が下がったり、せっかく考えても通用しなかったりとかは結構あるかも」
狭間とか、石落としとかで攻撃する手立てはあるものの、兵力差もあり、攻められたら落ちるのは時間の問題だろう。
そんな状態で改めて作戦を考えるとなると、自分の立場が絶望的だという事を痛感せずにはいられない。
「よし。じゃあ、せっかくだし、みんなで遊ぼうよ」
虚を突かれる。
この状況で遊ぶ、って。
そう思いながらも、千夏の言葉に心が躍っていた。
「そうだよ。そうしようぜ」
丁度、食べ終わった飛鷹が頷く。
「え、でも、この状況で遊んで大丈夫かな。敵が急に攻めてきたり…」
「ま、攻めてきたらコイツの反響でわかるし、ある程度は持ち堪えてくれるだろう」
死神が露見した鉄鋼部分に触れながら、心配そうに呟く鈴の肩に手を置く。
「そうだね。まあいっか」
「じゃあ、何する?」
想空がなぜかその指揮を執っていた。
さっきまでは口出ししていなかったのに本当は興味津々だったみたいだ。
「マジカルバナナ、どうかな。道具無しでルールも難しくないみたいだし」
鈴が前にクラスレクで千夏に楽しかったと話した遊び。
クラスレクでは咄嗟に言葉が出てこなかったけど、このメンバーなら、気負わずに楽しめそうだな。
「それ、どういう遊び?」
そっか。
死神さんは100年ほど前に死んだ人間だから知らないのか。
「一回、死神さん抜きで途中までやってみるから見てて」
千夏が両手をリズムよく刻む。
「マジカルバナナ バナナと言ったら黄色」
「黄色と言ったら、レモン」
「レモンと言ったら、刺激」
「刺激と言ったら、未知」
「未知と言ったら、不安」
「不安と言ったら、曖昧」
千夏、隼人、飛鷹、想空、鈴、理恵、西川さんの順で続けていく。
「曖昧と言ったら… 曖昧。えーと」
「残念。リズムから外れたから失格」
千夏が笑って、西川さんの語彙の絡まりを力づくに千切る。
「なるほど。なんとなくルールは分かったよ」
死神さん、街の人の陽菜さん、誠さんも合流。
その後も、個性豊かなワードが出てきて、西川さんや誠さん、陽菜さんが必死にそれを繋げていく。
ハラハラドキドキ。
その瞬間は異常に楽しかった。
絵しりとり、鬼ごっこ、NGワード、記憶力ゲームと、夜が更けるまでずっと多くのゲームで遊んだ。
こんなにも笑ったのは久しぶりだった。
けれど、それはほんの一時。
束の間の幸福だった。




