―第102章― 大切なものを失わない為の死神の「履行」
空気は濁り、震えていた。
その匂いは俺に決戦の訪れを予感させる。
「西川。すまないな」
倉庫から甲冑と槍、弓矢などの武具を取り出して、差し出した。
その表情には吐き出せない息が詰まっていて、不安と心細さが立ち込めている。
脛当て、草摺り、胴、と身体に甲冑が着せられていく。
静まり返った部屋の中、ぬくもりが熱く肌に伝わった。
ずっしりと重く、冷たい鉄が肌越しに体温を奪い、ゆっくりと馴染んでいく。
「やっぱり似合わないな」
鏡の前ではにかんだ俺は自分から見ても心許ない姿だった。
「もう決戦が始まる。扉を閉めよう」
この家は隣の発電所の間の繋ぎ目に鍵をかけることで、発電所と一体化した城になる仕組み。
発電所も俺が来る前はただの防御施設だったが、住民からの要望で、もう戦なんてないだろうと、俺がリフォームを施した。
その設備をまさか自分の代で活用するとは思わなかったな。
西川がその発電所と家の境目の扉に立って、外の様子を見つめた。
早くしないと、敵が。
いや、でも、ちょっとくらいいいか。
最期くらい。
名残惜しい気持ちは痛いほど分かる。
あわよくば、西川は逃がしてあげたいとは思うけど、おそらく逃げられない。
西川が扉に手を懸けようと触れた。
刹那、静寂が満ちていたこの部屋が元気な声によって勢いよく掻き回される。
その声を放った者は西川の手を乗り越えて、強引に城の中へと侵入した。
「飛鷹」
その後ろに、隼人、想空、鈴、理恵、千夏、街の人々も続けて城の中へ入ってくる。
「なんで…」
戦場には似つかわしくない長閑な表情で、飛鷹は笑っていた。
「それはこっちのセリフだろ。いざとなったら頼るんじゃなかったのかよ」
俺の頭を軽くチョップする。
「ま、表情的に分かってたけどな」
誇らしげに腕を組んでうんうんと頷いて見せる飛鷹に隼人が突っ込む。
「言ったのは、千夏だろ」
「アハハㇵ…」
女子3人はいつも通りの愛想笑いを後ろで浮かべていた。
「西川さんに帰り際、『あれ嘘ですよね』って訊いたら、案の定ね」
千夏の口角の片方が上がり、挑むような光が目に宿った。
「あ、いや。知らないところで死なれた方が傷つくだろうから」
西川に目を向けると、顔の前で手を振って、小さくそう呟く。
「ついでに参戦したいって言ってくれた街の人達も連れてきたよ」
後ろで力こぶを作った小太り気味の小森さん、他の街の人々も腕を組んで笑っていた。
「仕方ないか」
吐き出した溜め息は案外、清々しかった。
「もう、照れちゃって…」
西川の野次。
決戦の寸前とは思えない騒がしさに笑いが漏れ、甲冑に籠っていた緊張が解けていく。
恐れる気持ちは理屈じゃない。
だけど、こいつらがいた方がやっぱり心強いんだよな。
「よっしゃ。存分に暴れてやろうぜ」




