―第100章― 大切なものを失わない為の理恵達の「混迷」
弾かれたように走り出し、家に着くと同時に私は鏡を開く。
波に揉まれる感覚はなんだかいつもより生温く、どこか不気味だった。
死者の都の静謐は跡形もなく消え、今はただの喧騒に包まれている。
4人は悪意に塗れた貼り紙が散らばる死神さんの家の前で、不安を押し殺した顔をして突っ立っていた。
「ごめん。遅れた」
あとから駆けてきた飛鷹の表情も険しい。
みんな、立ち向かうふりをして怖いんだ。
それでも、震える頬を引っ叩いて、無理矢理にでも立ち向かう。
「行くよ」
千夏が曇っていた眉を引き上げ、自らを鼓舞するように声を上げた。
隼人が固く結んだ拳でドアを叩き、死神が出てくるのを全員が息を呑んで待つ。
「あ、君達か」
扉の向こうから現れたのは西川さんだった。
机で作業をしていた死神と一瞬目が合うが、気まずそうに視線をずらされた。
「前回の死神選挙のライバルだったっていう人に聞きました。千夏の延命、不正なんですよね」
隼人が深く息を吸ってから一息に核心を突く。
死神の表情から力が抜け、諦念の色に変わる。
「まあ、そりゃ伝わってるよな」
頭を掻き、力なく自嘲気味な笑みを浮かべた。
「俺達が無理に言ったせいで…」
謝罪の言葉を口にしようとした隼人の声を、死神が鋭く遮る。
「俺は後悔してないからいいんだよ。俺が君達の姿に惚れちまっただけだからさ」




