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防御結界のメンテをクビになったが、僕が消した「一行のコード」のせいで世界が滅びそう。〜今さら土下座されても、バックアップはもう削除済みです〜  作者: 影山ネル
第1章:『システム管理者、ルート権限を剥奪してログアウトする』

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第9話:互換性のない過去

学術都市の入り口に、泥と血に汚れた一団が到着した。

かつて王都で権勢を誇った魔導騎士団の生き残りと、そして変わり果てた姿の勇者レオンである。彼の自慢だった金髪は焦げ、豪華な鎧は帝国の魔法によってボロボロに砕けていた。


「頼む……ゼノンに合わせてくれ!彼がいないと、王国は今日にも滅びるんだ!」


門番の魔導師たちは、鼻で笑って彼らを追い返そうとする。

「残念だが、ゼノン閣下は現在『重要プロセスの実行中』だ。アポイントメントのない者の立ち入りは禁止されている」


閣下。学術都市の賢者たちにそう呼ばれていると聞き、レオンは屈辱に唇を噛んだ。かつて自分たちが「無能な管理人」と呼び、給料泥棒と罵った男が、今やこの世界の知性の頂点に君臨している。


その時、ゼノン・ラボの大型モニターが門の前に投影された。

そこには、相変わらず眠たげな目でコーヒーを啜るゼノンの姿があった。


『騒がしいですね。僕のラボの周辺は静音環境(クワイエット・ゾーン)に設定しているはずですが』


「ゼノン!私だ、レオンだ!頼む、戻ってきてくれ!悪かった、お前の給料は十倍……いや、百倍払う!帝国の攻撃を止めてくれ、お前ならできるはずだ!」


必死に叫び、地面に膝をつくレオン。周囲の観衆から失笑が漏れる。

ゼノンは無表情のまま、手元の端末で何かを確認するように指を動かした。


『レオン。君は一つ、致命的な勘違いをしています』


「勘違い……?」


『僕が王国で動かしていたのは、僕という個人が環境に合わせて構築した専用のプログラムです。僕を追い出した瞬間に、その実行環境(ランタイム)は破棄されました。今の王国は、いわばハードウェア(土地)が物理的に壊れ、回路が焼き切れた状態です』


ゼノンは淡々と、死刑宣告を下す。


『たとえ僕が戻ったとしても、今の壊れた王国には、僕のコードを動かすための「互換性」がもう存在しません。修復(リカバリ)は不可能です。……OS(王制)ごと入れ替えるしかありませんね』


「そんな……嘘だ!お前が本気を出せば、魔法一つで解決できるだろう!」


『魔法を万能の奇跡だと思っているうちは、君たちは何も救えない。……リセ、通信を切ってください。ノイズが酷い』


モニターが消え、レオンたちの前に残されたのは、冷たい沈黙だけだった。

ゼノンは一度も怒りを見せなかった。ただ、壊れた機械を見るような、無機質な目で彼らを切り捨てたのだ。


ラボの内部で、リセは少しだけ複雑そうな顔をしてゼノンを見た。


「ゼノンさん。本当に、もう助けられないんですか?」


「物理的には可能ですよ。でも、リセ。一度バックアップを捨て、管理者(僕)を攻撃したシステムを、わざわざ自腹を切って直す義理はないでしょう?」


ゼノンは新しい画面を開く。そこには、王国の滅亡後を見越した、学術都市を中心とする新しい「世界ネットワーク」の設計図が描かれていた。


「過去のレガシー(遺物)にかまっている暇はありません。僕たちは、次世代の環境を構築しなきゃいけないんだから」

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