第4話:レガシーな魔導書のリファクトリング
助けた少女――リセは、ゼノンの部屋のボロい椅子に座り、信じれないものを見るような目で彼を見つめていた。
ゼノンの膝の上では、少女が命懸けで守っていた「伝説の魔導書」がバラバラに分解され、空中に青白い羅列として展開されている。
「……ありえない。それは、数百年前に失われた古代の聖マギウスが記した、解読不能の禁書のはずなのに」
「解読不能っていうか、ただのスパゲッティ・コード(複雑に絡まりすぎた記述)ですよ。これ。当時の記述言語が古すぎるせいで、無駄な記述が全体の八割を占めています」
ゼノンは空中に浮く文字を指先でフリックし、ゴミを捨てるように消していく。
「あ、ここ。条件分岐(if文)が重複してますね。削除します。それから、この魔力供給の関数……。効率が悪すぎて、実行するたびに術者の寿命を削る仕様になってますよ。あぶないなぁ」
「えっ、あ、あぶない……?」
「ええ。最新のライブラリに書き換えておきました。これで、寿命の代わりに『昨日の晩御飯の記憶』を数秒忘れる程度の負荷で発動できるようになります。……はい。リファクタリング完了」
ゼノンがパチンと指を鳴らすと、空中の文字が本へと吸い込まれ、表紙の装飾が以前よりも鋭い光を放ち始めた。
リセが恐る恐る本を開くと、以前は読むだけで頭痛がした難解な呪文が、驚くほどスッと頭に入ってくる。
「すごい……!私、これなら発動できる気がします……!」
「よかったですね。ま、僕にとっては古いOSのパッチ当てみたいなもんです」
ゼノンは興味を失ったように、再び自分の端末に向き直った。
画面には、かつて自分が管理していた「王国の防衛ログ」の残骸が表示されている。
「……お、始まったか。王宮のメインサーバー、予想通り過熱してますね」
「え……?王都で何かが起きているんですか?」
「僕が抜けた穴を、無能な魔導師たちが無理やり力技で埋めようとしたんでしょう。魔力の同期が取れなくなって、今ごろ王宮全体の魔力回路がショートしてるはずです」
ゼノンは画面を見ながら、冷たく鼻で笑った。
今さら泣きついたところで、彼が消したコードは「完全削除」済みだ。復旧には、彼が数年かけて組んだシステムを一から構築し直す必要がある――それも、彼並みの知識があれば、の話だが。
「さて、リセ。君はこれからどうするんですか?追われてるんでしょう?」
「私は……この本を持って、北の『学術都市』を目指そうと思っていました。でも、あんな追手がまた来ると思うと……」
「学術都市……。あそこなら高速な魔力回路(大気中の魔素)が引かれてるって聞くな。僕も新しいサーバーを立てる拠点が欲しかったんだ」
ゼノンは立ち上がり、端末を鞄に放り込んだ。
「よし、決めた。リセ。君の護衛、僕が引き受けましょう。その代わり、学術都市に着いたら僕の拠点の掃除と管理、手伝ってもらいますよ」
「えっ……!?は、はい!喜んで!」
こうして、無職の管理者と、魔導書を持つ少女の旅が始まった。
一方、王都では――。
勇者レオンが、魔法が使えなくなったことで暴走し始めた魔物たちを前に、顔を真っ青にして叫んでいた。
「誰か!誰でもいいから、あの根暗男を連れ戻してこいッ!!」
その声がゼノンに届くことは、もう二度となかった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
もし「面白い」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、作品ページ下部にある**【☆☆☆☆☆】**からの評価や、ブックマーク登録で応援をいただけますと非常に嬉しいです!
皆様の応援が、執筆の最大のモチベーションになります。
評価・感想・ブックマーク、ぜひよろしくお願いいたします!




