第16話:脆弱性(チート)へのパッチ当て
「不法侵入……?ははっ、面白いことを言うガキだ」
金の鎧の男――異世界の勇者カシムは、大剣を肩に担ぎ直し、ゼノンを嘲笑った。
彼の背後には、女神から与えられたという『万能の加護』の光が、オーラのように揺らめいている。
「俺は女神に選ばれし勇者だ。この世界の法則なんて知ったことか。俺が歩けば道は開け、俺が望めば世界は変わる。……お前も、俺の『チート能力』の前にひれ伏せがいい!」
カシムが地面を蹴る。
その瞬間、彼が踏み込んだ場所の『ZENON-NET』の物理演算がバグを起こし、空間がひび割れた。
異世界のOSが持つ強引な書き換え能力が、ゼノンの構築した平穏な環境を侵食していく。
「――死ねっ!『絶対切断』!」
振り下ろされた大剣から、因果を無視した一撃が放たれた。
それは「当たれば必ず切れる」という、論理を無視したチートコードだ。
だが、ゼノンは一歩も動かない。
彼の指先は、手元の端末で凄まじい速度のタイピングを続けていた。
「……なるほど。外部から強制的に『真(True)』を上書きする、粗悪なマクロですね。リセ、シールドの出力を『隔離モード』に切り替え」
「はい、了解しました!」
大剣がゼノンの鼻先で止まった。
見えない壁に阻まれたのではない。剣の周囲の空間だけが、ゼノンによって”【仮想環境】”に閉じ込められたのだ。
「な、なんだ!?俺の剣が……動かん!?因果を切断するスキルが、なぜ効かない!」
「君のスキルは、この世界のメモリ(現実)を直接書き換えようとしている。だから、君の周囲だけを『偽の現実』にリダイレクトさせてもらいました。そこでいくら因果をいじっても、僕の世界には何の影響もありませんよ」
ゼノンは呆れたように息をつく。
「女神だか何だか知りませんが、外部OSを導入するなら、せめてこちらのAPIに準拠させてください。
そんなバグだらけの能力を野放しにするなんて、管理者(僕)への挑戦ですか?」
「ふざけるなッ!魔法すら使わずに、小賢しい理屈を――」
「理屈じゃない。ただのデバッグです」
ゼノンが端末のエンターキーを叩いた。
$ systemctl stop guest-user-service
$ chmod 000 /guest/cheatsheet
「――あ」
カシムの全身から溢れていた金のオーラが、一瞬で消失した。
女神から与えられたはずのチートスキルが、まるで「ライセンス切れ」を起こしたソフトのように、一切の反応を返さなくなったのだ。
「お、俺の力が……女神様の加護が、消えた……!?」
「消したんじゃありません。君の通信パケットを『不正なプロトコル』としてドロップ(遮断)しただけです。女神様との接続が切れた今の君は、ただの重い鎧を着た一般人ですよ」
ゼノンは絶望に歪めるカシムを一瞥もせず、ログを確認する。
「……さて。勇者くん。君を送り込んだ『女神』とやらのサーバーのアドレス、君のログから逆探知させてもらいましたよ。勝手に僕の世界にバグを送り込んだお礼、しっかり返させてもらいますからね」
ゼノンの瞳に、デバッガーとしての冷徹な光が宿った。
「不正ユーザーの排除は完了。これより、ソースコードの出所である『女神』に対し、直接攻撃を伴う強制監査を実行する」
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