第17話:創造主への強制監査(システム・テイクオーバー)
無人島の砂浜に膝をつき、自分の剣すら持ち上げられなくなったカシムを見下ろしながら、ゼノンは手元の端末に複雑なスクリプトを打ち込み始めた。
「……な、何をしている……。女神様への接続を……俺の力を返せ……!」
「黙っていてもらえますか。今、君をプロシキ(中継サーバー)にして、君の主の居所をスキャンしている最中なんです」
ゼノンの端末から、幾筋もの光の回線が伸び、カシムの体を縛り上げる。
それはカシムがこの世界に降り立った際に開いた『次元の穴』の残滓を辿り、その向こう側にある「上位世界」の構造を解析するためのプローブ(探針)だった。
「特定しました。……座標、次元レイヤー・ゼロ。自称『神の庭』ですか。……ふん、セキュリティが甘いな。ファイアウォールすら設定されていない。リセ、強制接続を開始します。僕のルート権限を向こうのサーバーにミラーリング(転送)してください」
「了解しました!ゼノンさん、向こうの世界から強い拒絶反応……『神威』が来ています!」
「構いません。すべてログに捨てて。――実行!」
ゼノンがエンターキーを叩くと、空間が「バキッ」と音を立てて割れた。
次の瞬間、ゼノンとリセの視界は、白銀に輝く広大な神殿へと切り替わっていた。
そこには、一人の美しい女性が立っていた。
この世界の創造主を自称し、カシムを送り込んだ女神・ルミナスである。彼女は驚愕に目を見開き、自分の聖域に土足で踏み込んできた「人間」を指差した。
「不敬な……!人の身でありながら、神の領域にハッキングを仕掛けるとは!私はこの世界のルールそのものなのですよ!?」
「ルール、ね。そのわりには君が書いたコード、設計思想がバラバラで読みづらいんですよ」
ゼノンは神殿の空中に、女神が隠していた「世界の根源プログラム」を強引に引きずり出した。
そこには、過去に捨てられた古い設定や、その場しのぎで追加されたチートの残骸が、山のように積まれていた。
「……あちこちにバックドアを作って、お気に入りの勇者を送り込んで好き勝手させる。君がやっているのは『管理』じゃない。ただの私物化(私的利用)だ」
「何ですって……!?私は神なのですよ!私が何をしようと自由――」
「自由の代償に、僕の世界に負荷をかけた。それが問題なんです」
ゼノンは端末の画面を女神に向けた。
そこには、女神が持つ『創造主権限』のステータスが、凄まじい勢いで「書き換え中」となっているバーが表示されていた。
「今から、君の『創造主権限』を一時停止し、僕の管理下での強制監査を行います。これ以上の不正アクセス(勇者の召喚)を検知した場合は、この神界のOSごとフォーマットします。……いいですね?」
「待ちなさい!権限が……私の権限が消えていく!?やめて、それは私の――!」
「管理能力のない者に、ルート権限(神の座)は必要されません」
ゼノンは冷徹に言い放ち、最後の一撃をキーボードに叩き込んだ。
神の庭と呼ばれた聖域に、エラーメッセージを告げるアラート音が鳴り響いた。
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