第14話:ログアウトのその先で
世界OS『ZENON-NET』のデプロイから、三年が経過した。
かつての「魔導師」という特権階級は消滅した。今や魔法は、読み書きと同じ「誰にでも習得可能な技術」となり、世界は劇的な発展を遂げている。
学術都市のさらに北。かつては未開の地と呼ばれた山脈の頂に、その場所はある。
『ゼノン・システム管理センター』。
世界の魔力流を監視し、バグを未然に防ぐ、名実ともに世界の中心地だ。
「ゼノンさん、定期メンテナンス、オールグリーンです」
落ち着いた声で報告するのは、かつての震えていた少女、リセだ。彼女は今や、世界最高のシステム運用者として、ゼノンの右腕を務めている。
「そうか。お疲れ様。……リセ、王国……だった場所のログ、少し見せてくれるか?」
ゼノンが空中に指を滑らせると、現在の「旧王国」の様子が映し出された。
そこには、かつての栄華の欠片もない。帝国の賠償金によって解体されたその地は、今や周辺諸国の「魔導資材の再利用センター」となっていた。
画面の隅に、ボロボロの服を着て、工事現場で魔法を使って石材を運ぶ男の姿があった。
かつての勇者、レオンだ。
彼は今、ゼノンが公開した『初級・土木用魔法パッケージ』を使い、日銭を稼いでいた。
「……あいつ、まだ僕が書いたコードの『利用規約』を守ってるんだな」
ゼノンは可笑しそうに、鼻で笑った。
レオンは時折、空に浮かぶ巨大な管理センターを見上げては、血が滲むほど唇を噛みしめている。
だが、今の彼にはゼノンに届く術(アクセス権)はない。
彼が捨てたのは、ただの「地味な管理人」ではなかった。自分たちの人生の「基盤(OS)」そのものだったのだと、一生かけて理解し続けるしかない。
「さて、仕事は終わりだ。……リセ、今日は新しいパン屋が麓にできたらしい。デバッグのついでに行ってみるか」
「はい!もちろんお供します!」
ゼノンは席を立ち、愛用の端末をポケットに入れた。
彼はもう、誰かに評価される必要はない。
世界そのものが、彼の書いたコードで呼吸し、彼の設計した仕様通りに動いている。
一人のエンジニアがログアウトした後に残ったのは、かつてよりも少しだけ「バグ」の少ない、美しく整えられた新世界だった。
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