第12話:出張デバッグ
ガルドア魔導帝国の帝都。その中央広場には、空間を食い破るように黒い「ノイズ」が噴き出していた。
帝国が呼び覚ました禁忌の存在――『魔王』。
それは生命体ですらなく、世界の法則を書き換え、周囲の物質を強制的にデータエラー(塵)へと変える、歩く破綻そのものだった。
「ひ、ひぃっ!制御不能だ!中止しろ、今すぐ儀式を中止しろ!」
帝国の魔導師たちが叫ぶが、すでに手遅れだ。管理者権限を持たぬままバックエンドを弄った報いとして彼らの肉体は次々と「定義不明のオブジェクト」へと変換され、消滅していく。
そこへ、一隻の小さな魔導ボートが悠然と飛来した。
降り立ったのは、眠たげな目を擦り、ポータブル端末を片手にしたゼノンだ。
「……ひどいな。完全なメモリリークだ。これ、放置していたら世界が物理的に焼き切れますよ」
「ゼ、ゼノン殿!助けてくれ!この怪物を消し去ってくれ!」
生き残った将軍が、ゼノンの足元に縋り付く。
「助ける?勘違いしないでください。僕は自分の開発環境(世界)を守るために、バグを取りに来ただけです。……リセ、バックアップの準備は?」
「は、はい!いつでもいけます!」
傍らでリセが魔導書を展開し、ゼノンの周囲に「保護されたメモリ領域」を形成する。
魔王――世界のバグが、ゼノンを認識し、空間ごと消滅させる一撃を放った。
しかし、ゼノンはその攻撃が届く直前、指先で空間にコマンドを打ち込む。
$ chmod 000 /world/boss_entity
(対象:魔王 権限:全剥奪)
空気が凍りついた。
魔王が振り上げた腕が、まるで「存在することを許されていない」かのように、透明になって透けていく。
「……お前の術式は分かった。無限に自己増殖する再帰関数だ。でも、終了条件が設定されていない。だから、僕が今、一文字書き加えてあげましたよ」
ゼノンが画面のエンターキーを静かに叩く。
「break;(処理中断)」
絶叫すら上げることなく、魔王と呼ばれた漆黒の巨躯が、上から順にデジタルな塵となって消えていく。
帝国の最高戦力が束になっても傷一つ負わせられなかった絶望が、ゼノンの指先ひとつで「無かったこと」にされた。
「デバック完了。……さて、帝国の方々。他人のサーバー(世界)にこれだけの負荷をかけたんです。相応の損害賠償、請求をさせてもらいますよ?」
ゼノンの冷徹な宣告が、静まり返った帝都に着いた。
王国を滅ぼし、世界を脅かした帝国。その終わりは、あまりにも事務的な「演算」によって幕を閉じた。
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