第11話:神格化される管理者
ガルドア魔導帝国の精鋭が、指一本触れられずに無力化されたというニュースは、瞬く間に学術都市を駆け巡った。
ゼノン・ラボの周辺には、いつの間にか「聖地」を拝むかのように跪く魔導師たちが列をなしている。
「ゼノン様!どうか、その神の如き術式の片鱗をご教授ください!」
「あの理の書き換えこそ、我々が数百年求めてきた真理の極致だ……!」
ラボの外に溢れる熱狂的な声を聞きながら、ゼノンは心底嫌そうな顔をして耳栓をはめ直した。
「……リセ。表の連中、何て言ってるんです?」
「ええと……ゼノンさんを『魔導の神』とか『世界を統べるOSの化身』とか呼んで、崇拝しているみたいです」
「勘弁してほしいな。僕はただ、効率的な環境を整えたいだけの『保守要員』ですよ。勝手に神格化(クラス拡張)しないでほしい」
ゼノンはマルチモニターに向き直り、キーボードを叩く。
画面には、世界地図の上に張り巡らされた巨大な回路図が映し出されていた。
「信仰なんて非科学的なプロトコルに付き合っている暇はありません。今、世界中の魔力スポット(サーバー)を同期させて、誰もが安定して魔法を使える『グローバル・マナ・ネットワーク』の構築を急いでいるんだから」
ゼノンの目的は、もはや個人の勝利ではない。
この世界の「魔法」という不安定なシステムを、誰にでも扱える安定したインフラへとリファクタリングすること。それが完了すれば、特権階級である魔導師や、暴力で支配する勇者の価値は暴落する。
「……あ、また帝国からログが。しぶといですね」
モニターの端に、警告が赤く灯る。
敗北した帝国は、正攻法ではゼノンに勝てないと悟り、ついに禁忌の手段を選んでいた。
帝国の地下深くに封印されていた、世界の理から外れた「異形の魔力」。
それはかつて、開発者が修正しきれずに放置した『世界のバグ(魔王)』と呼ばれた存在だった。
「……これ、まずいな。帝国の連中、システムの管理者権限もないのに、バックエンドのデータベースを直接弄ろうとしてますよ」
「え……?それって、どうなるんですか?」
「世界全体がクラッシュする可能性があります。……リセ、悪いけどお茶の時間は終わりだ。パッチ(封印魔法)を当てる準備をして。強制終了しにいく」
ゼノンは椅子から立ち上がり、愛用の魔導端末をポケットにねじ込んだ。
一方、王国の残党である勇者レオンたちは、学術都市の片隅で、ゼノンの足元にも及ばない自分たちの無力さに打ちひしがれていた。彼らが「いらない」と捨てた管理者は、今や世界が壊れるのを防ごうとする、唯一のデバッカーとなっていたのだ。
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