異変……
私は立ち上がって。
部屋の角にある。
クローゼットの取っ手に手をかけた。
「けんくんの荷物は、昨日、色々あって、ここにしまって……」
あれ……?
「里村さん?」
「あ、あの……荷物がないです……」
クローゼットの中は。
跡形もなく空っぽ。
「あいつに連絡してくれる? 僕は風呂場見てくるから」
声は落ち着いていたけど。
川勝さんの動きは。
素早くて。
風のように走り去った。
バタン……
扉の閉まる音に。
ハッとして。
けんくんに電話をかける。
プルル……プルル……
『葛城です。ご用件のある方はメッセージを残して下さい』
「あ、あの。けんくん。柚葉です。どこにいるの? 連絡してくれる?」
えっと……
それから……
「けんくん、出掛けたの? なんかあったの? 川勝さん来てくれてるよ」
メッセージも送る。
「よし……」
でも。
どういうこと……?
訳もなく。
胸騒ぎがして。
ちょっと。
頭の整理が追いつかない。
川勝さんは。
6時半頃に。
けんくんから連絡があったって。
ということは。
その時点で。
けんくんは。
すでに。
お風呂を上がってた……
そして。
荷物を持って出掛けた……
ん?
なんで。
私に連絡くれなかったのかな……
「ふぅ……」
トントンと。
拳でおでこを叩く。
落ち着け柚葉。
とりあえず……
ポーチ片手に。
洗面所に向かった。
サクッと。
メイクを済ませたところで。
コンコン。
ノックが聞こえた。
「はーい」
「川勝です」
メイク道具をポーチにしまい。
洗面所を足早に後にして。
扉を開けた。
「連絡取れた?」
私の顔を見るなり。
両手を広げ。
首をかしげる川勝さん。
「いいえ」
首を振る私。
「そう……」
川勝さんは。
腕を組んで。
眉間にしわを寄せる。
「あ、立ち話もあれですから……」
「ん? そうだね……あっ、里村さん、支度は出来てるの?」
「あ、はい」
「じゃあ、朝食食べない?」
「あ、分かりました。少し待っててください」
「オーケー」
私は部屋に戻り。
スーツケースに荷物を詰め込んだ。
さっきまでの。
旅情は消え去って。
なんか。
嫌な予感がしてるのを。
分かっていても。
分からないようにしている。
けんくんが。
前日に約束したにも関わらず。
今朝になって。
川勝さんを呼び出した理由。
私に何も告げずに出掛けた理由。
きっと……
よし。
ポンと。
スーツケースを叩く。
ゆっくりと。
窓の外へ。
目を向けた。
さっきより。
色めき立っている景色。
こんなに穏やかなのに……
私は。
忘れ物がないか。
部屋を見渡して。
スーツケースを引いた。
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