夜が明けて
今朝も寒くて目が覚めた。
日中は過ごしやすいのに。
朝晩の冷え込み具合は。
田舎に似ている。
その甲斐もあって?
冷えた体を湯船に浸し。
ぬくぬくと。
じわりじわりと。
体の奥まで温めてくれている。
貸し切り状態の浴場。
何もかも独り占め。
その大きなガラス窓の外には。
凪いだ水面の瀬田湾。
向こう岸の半島の木々や。
右手奥に聳える麻霧山の東斜面は。
朝陽を浴びて煌めいている。
水色の空に漂う。
様々な形状の雲たちも。
ほのかに淡く。
黄色やオレンジに染め上げられて。
紺碧の海は。
深く静か。
左手に目を移せば。
「わぁ……」
ここからでも。
大きさが目を引く。
一隻のタンカーが航行していた。
屋島も見える。
点在する島々も。
穏やかな。
風景画のような景色が。
どこまでも広がっている。
かすかに。
低いエンジン音が。
耳に届く。
目の前の海面を。
ゆったりと滑り行くフェリー。
その船尾には。
パンダの装飾が施されていて。
かわいらしい。
瀬田港と高松港を。
1時間かけて繋いでいる。
ひょんなことから。
始まった旅も。
今日が最終日。
窓辺に腕を置いて。
顎を乗せた。
今度は。
のんびり観光で来てみたいな。
心地よいお湯に抱かれて。
ぼんやり。
のんびり。
旅の目的。
りょうさんのこと。
先祖の神社のこと。
なーんにも。
分かってないけど。
空想や妄想を膨らませて。
けんくんと。
あーでもない。
こうでもない。
そんな会話自体が。
楽しいし。
至福の一時でもあったり。
少なくとも。
けんくんと。
歴史好きな者同士。
同志としての友情を。
育む機会にはなったかな。
視界が雲の影に包まれた。
けんくんは。
辛い記憶も共有してくれて。
それに。
巫女の血筋だという。
けんくんの……
えーと……
元カノでいいのかな?
布津知栄里さん。
可能性だけで言えば。
私の祖先と。
関連があるかもしれない……
それに……
ハクトという人物。
けんくんは。
巫女を恐れる者。
なんて言い方をしてたけど。
因縁のある。
ハクトが。
島にいるのは。
偶然なのか。
はたまた。
これも。
一つの《えにし》なのか?
「んー」
両手を挙げて。
伸びをする。
雲が流れ。
夕凪島が。
ゆっくりと彩りを取り戻し。
辺りが明るくなる。
さっき目の前にいたフェリーは。
すでに。
遥か沖合いにいた。
けど……
短い間なのに。
印象に残る出逢いが多かった。
人も景色も。
西龍寺かやの雄大な眺めに。
寝観音様。
中山地区の棚田。
碁石山の崖っぷちの明王様。
昨日見た夕焼け。
どれも。
心に焼き付いている。
川勝さんに。
畑さん。
不破住職。
皆さん。
歴史を人生の友として。
寄り添っておられて。
時間があれば。
教えを乞いたいし。
色んなこと。
聞いてみたい。
それに……
『松寿庵』の香さん。
あの漆黒の大きな瞳。
吸い込まれそうで。
何かを見透すようで。
やっぱり。
彼女も巫女の末裔とか。
なのかな。
また。
会いたいね……
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




