疑問は好餌
「ゆうさん、どうしましたか?」
「あっ、ううん。なんとなく、名もなき姫って言葉から、りょうさんが言ってた言葉を想い出して」
髪を耳にかけて。
オレンジジュースを口にする。
「ほう。なるほど」
「なんか、それだけの誇れる血筋? なのに、ふるさとを離れて、身分も隠して、この地に移り住んだんだって想ったら、ちょっと、可哀想かなって」
「確かに。出雲から夕凪島ですからね。歌にあったように山を越え、海を渡る訳ですしね」
「うん」
「その、何故、故郷を離れたのかは分かりませんけど……」
腕を組み。
宙を見据えたけんくん。
ふとわいた疑問を口にしてみた。
「でも、なんで夕凪島だったのかな?」
「ほう。面白いですね」
両手をこすり合わせたけんくん。
「何の当てもなく、旅立ったと想えないよね?」
「そうですね。脈絡もなく、さまようより、目的地はあったはずですね」
「それか、別の目的地があったとか?」
「いや、それはないと想いますね」
「どして?」
「彼の童歌ですよ」
「あ、そっか……」
『日沈みの社やしろ去り、大いなる山仰ぎ見て。山越え野を越え、打出た海にて島渡る』
その時。
川勝さんの言葉が。
甦ってきた。
実際には。
川勝さんの知り合いが。
言った言葉だったはず。
確か……
「けんくん。川勝さんが、知り合いから聞いた言葉が答えかも」
『この島は何かを隠したり、守ったりするには適した地形と大きさだと』
「そうですね。夕凪島は瀬戸内海で2番目の広さで、山々は意外と深くて、盆地や高地もあって、洞窟に入り江も多い」
「でも、なんで夕凪島のこと知ってたのかな?」
「おやおや、楽しくなってきましたね」
チョコレートを。
口に放り込むけんくん。
「あながち、現代の我々は昔の人々を誤解しがちですよね、文明が発達してないからと」
「そうだね。移動の手段とか限られているけど、交流はあったもんね」
「ええ。ですから、夕凪島の存在は知っていたのでしょう」
「そだね。もしかしたら、それこそ知り合いとかいたのかもね」
パン!
けんくんは。
顔の前で両手を叩く。
「それ、あるかもですよ」
「だよね。でも、なーんも根拠ないけど」
「僕らは、それで、いいんですよ」
けんくんは。
トマトジュースを掲げて見せた。
私も。
オレンジジュースを持ち上げた。
「あれ? 何の話してたっけ?」
「ああ、護龍神社は名もなき姫を祀っていたのではないか」
「ああ、そっか。だから、護龍神社って名前なんだ。龍を守る、女性を、姫を守る」
「ええ。ただ……」
「ん?」
「これは、飛躍し過ぎ、まあ、今までの話も妄想なんですけど……」
「うん、聞かせて」
「ゆうさんの祖先は神主。その姫を祀り、ある意味守っていた存在ですよね?」
「まあ、そうなるのかな」
「だとすると、姫の血脈とは別の一族ではないか。もちろん。同じ一族の象徴たる人物をお祀りしただけかもしれませんが」
「一理ある」
「まあ、どこかの時点で、血の交わりはあったのかもしれませんし、現に……」
「ん?」
真っ直ぐ私を見つめるけんくん。
「んん?」
私は顔を突き出した。
「あっ、失敬」
「なによ?」
「ああ、いや、ゆうさんの瞳です。巫女の血脈を現しているのだとしたら、少なくとも、血の交わりはあったかと」
「ああ……」
「素直に、ゆうさんの家系が姫の血統ということも全然あるわけですが」
「じゃあ、りょうさんも同じ可能性がある。龍の上下の紋様も意味があるよね」
「ええ。上向きの龍の紋様がゆうさんのご先祖。下向きが彼でしたよね」
「ふん。対になってるよね」
あれ?
龍の紋様を想い浮かべたら。
何か。
想い出せそうで。
出せない。
「ゆうさん、どうしました?」
「うーん。何か想い出せそうなんだけど……」
眉間にシワを寄せて。
人差し指でおでこをつつく。
「まさに考える人ですね」
「へ?」
「いやいや」
けんくん。
ニヤニヤしながら、
トマトジュースで。
喉を鳴らしている。
龍の紋様じゃないけど。
龍の絵をどこかで目にしたんだよね……
どこだったっけ……
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