巡らす糸の先
けんくんが。
指差した先に。
坂手神社の奥の院。
約束の木のある小さな社があった。
「だから碁石山が、奥の院だったんだ」
「だと想います。それで、護龍神社の祭神は、事代主と五十鈴依媛ですよね?」
「ふん」
「これも、妄想に輪をかけたものですが、本来のご祭神は、五十鈴依媛。すなわち女性の神をお祀りしてるのではないか」
けんくんは。
トマトジュースで。
喉を湿らし。
顔をしかめた。
「龍は……蛇とも解釈され、水を意味します」
「ああ、あれだよね、例えば、スサノオが退治した、八岐大蛇なんかも、それ自体が河川を意味していて、氾濫するのを鎮めたっていう」
「ですね、云わば治水事業だったのを、怪物退治に置き換えた」
「それで、龍が水だとしてどうなるの?」
「ええ。水の神様の多くは女性神であるのは偶然ではないかと」
「うん、海は命の源だもんね」
「はい。それで、事代主は、所謂、建前上のご祭神で、人々の目を欺くためのものだと」
「だから、五十鈴依媛……」
あれ?
でも。
五十鈴依媛は。
ご祭神の一柱。
何も隠されていない……
「あっ……もしかして、あの姫と思しき人を祀った……?」
「ええ。五十鈴依媛もカモフラージュだということです」
「ということは? やっぱり、姫は事代主の縁者……」
「ええ。五十鈴ってなんだか知ってます?」
「えーと。巫女さんが神楽で舞うときに使う、クリスマスツリーみたいなのに、小さな鈴がたくさんついたやつでしょ?」
私は。
拳を顔の脇で振って見せる。
けんくんは。
頬を上げる。
「ええ。場所によっては、独特の形をした五十鈴もあるようです。三角形の角に球体の鈴が着いたものとか、奈良の天河神社とかが有名です」
「へえー。で、その五十鈴がどうしたの?」
「五十鈴という言葉は、たくさんの鈴という意味らしいのですが、なぜ、五十鈴依媛なんでしょう?」
「ん……?」
けんくんは。
私を見ながら。
クッキーを食べて。
「ゴホッ、ゴホッ……」
むせ込んだ。
「大丈夫?」
片手を突き出して。
トマトジュースを飲みたずけんくん。
「はぁー。死ぬかと想いました」
「そんなに?」
「ごめんなさい、話の骨折っちゃいました」
「ううん。全然」
肩をすくめて。
カリッと。
ポッキーをかじる私。
「で、ゆうさん、なんでだと想います?」
「五十鈴依媛か?」
「ええ」
「うーん……」
私はチョコを口に含んだ。
広がる甘さに。
思考を委ねる。
なんで。
五十鈴か。
五十鈴は。
巫女さんが神楽を舞う時に使う物。
巫女……?
「巫女だから?」
「得たり」
腕を組んで。
うなずくけんくん。
「この場合の巫女は、神様のお告げを聞けたという、本来の巫女を指します」
「じゃあ、本来、お祀りしてたのは、そのお姫様……」
「ええ、名もなき姫です」
名もなき姫。
その響きに。
なぜか。
りょうさんが話していた言葉が。
甦ってきた。
『大きな時代の波という色。それに飲まれたり。混ざったり』
『それこそカメレオンのように。自らの色さえ変えて。順応したり適応したりする』
『それでも、敢えて馴染まなかった色もあるのが歴史の面白いところでしょ……』
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