思考の旅
「まあ、同伴者が男性とは限らないですし、部屋のことも、状況的にホテルの混雑が原因で、ツインルームをシングルユースにしたとも考えられますからね」
「なるほど」
「もうひとつ。相手も同じことを考えてるかも、しれません」
けんくんは。
ニヤリと笑って。
ボリボリと。
小気味いい音を立て。
ポテトチップスを頬張ってる。
「ふん。そだね、歴史や事象と同じで、色んな角度から視なきゃだね」
私は。
カリッ。
と。
音を弾ませて。
ポッキーを食べる。
もし。
同伴者が。
りょうさんなら。
同じ屋根の下にいたってこと?
んー。
でも。
ランダムチャットしたの一昨日でしょ?
宿泊先変えたりするのかな……?
「ゆうさん。このミルクチョコレート旨いですよ。脳に糖分、補給しましょう」
「そだね」
透明な包みの中から。
親指の先くらいの大きさの。
円筒形のチョコを取り出して。
口に放り込む。
まろやかな甘さに。
頬が落ちる。
「じゃあ、僕の方からいいですか?」
ノートを広げながら。
伏し目がちに私を見た。
「うん」
私の声に。
ニヤリと口だけで笑う。
「坂手の神社の御祭神は、豊受姫でしたよね?」
「ふん」
私はポテトチップを摘まんで。
口の中で。
甘じょっぱさを作る。
「豊受姫は、簡単に言えば海の女神ですよね」
「うん」
「僕は、例の水分神社と鰐神社が、護龍神社ではないかと考えました」
「どして?」
「まずは、場所です。鰐神社は坂手の入り江に浮かぶ小さな島。水分神社は山の中でした」
「海に関係あるから、島なら分かるけど……」
「ええ。でも、見晴らし良かったでしょ?」
「ん?」
「あの神社の手前にあった公園。覚えてませんか?」
「ああ、ブランコがあっただけの公園か」
「そうです。あそこ坂手港を眼下に、先は瀬戸内海、対岸の四国も見えました。それに、田浦半島を挟んで内海湾も見渡せました」
「確かに」
「調べて分かったんですが、坂手の沖合いは、備讃瀬戸航路と言って、遥か古より、言わば船舶の大動脈だそうです」
まだ。
けんくんが。
何を言いたいのか量りかねて。
首を傾げる私。
「それは、外部からの侵入を監視するには持ってこいじゃないですか?」
「何のために?」
「西龍寺のご住職が、姫と思しき人を連れて、東へ行ったというのがありました」
「うん」
「その一団が、辿り着いたのが、坂手町じゃないかと」
「それで?」
「あそこなら、内海湾と坂手、どちらか一方から、侵入者があっても、どちらかから逃げおおせる」
「両方から来たら?」
「その避難場所が、碁石山の霊場ではないかと。西龍寺も山頂近くでしたが、湧き水があったでしょ? 碁石山もあるのかもしれません」
「なるほど」
「確認すれば良かったんですけどね。今では道も整備されて、あの場所まで楽に赴くことが出来ますが、当時はそれなりの労力が必要だったはずです」
「それから?」
「あの崖の上の波切不動明王も航海の安全を見守ってらっしゃるんですよ」
「でも、内海湾がある西向きじゃなくて、南の方。競り出した山を向いてたよ」
「ええ。でも、その山の裏側、急峻な裾を下った先に……」
けんくんは。
テーブルの真ん中に。
夕凪島の地図を広げた。
「ここが、碁石山です」
差した指を。
ゆっくりと地図の上を這わす。
「あっ……!」
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