妄想も発想も
志村さんを。
入口まで見送って。
閉めた扉に寄りかかった。
結局。
肝心な答えはもらえなかったけど。
りょうという名前に。
少なからず。
反応はあったように想う。
けど。
歴史のことは。
あまり興味ないというか。
むしろ。
好意的な捉え方はしてないように想えた。
「はぁ……」
肩を落として。
ため息ひとつ。
志村さん。
きれいな人だなぁ。
メイクしてなくても。
眉も自然な感じで。
まつ毛も長くて。
切れ長の目だけど。
目尻が下がり気味だから。
柔らかな印象だし、
それに。
スタイルも良かったし……
やっぱり。
恋人かな……
もたれた背中を扉に押し付けて。
その反動で歩き出す。
でもでも。
連絡先ゲットしたし。
私の女の勘は。
志村さんは。
りょうさんに関わりのある人だと。
そう。
告げている。
それに。
約束の木に結ばれていた絵馬。
『亮の願いが果たされますように』
最後に記されていた名前は。
有里。
志村百合さん。
きっと。
名字は偽名で。
百合というのは。
他の漢字を被せただけ。
浴場で名前を言う時に。
志村さんは。
言い淀んでいたから。
「んー」
両手を前に伸びをする。
なーんて。
けんくん紛いの発想してみたけど。
あっ。
けんくんに連絡しないと……
ポケットから。
スマホを取り出して。
電話をかける。
『もしもし、ゆうさん』
耳に添えた瞬間。
けんくんの声が飛んできて。
どこか。
ホッとする私。
「けんくん、ありがとう。待たせちゃったね、終わったよ」
『いいえ。お疲れ様です。じゃあ、戻りますね』
「はーい」
それから。
5分と待たずして。
部屋に帰ってきたけんくん。
私の顔を見るなり。
「成果は芳しくないのですか?」
手にしたビニール袋を掲げて見せた。
「まあ、肝心なことは聞けなかったかな、でも、連絡先は教えてもらったよ」
「ほう。それは、すごいじゃないですか」
けんくんは。
にやっと。
口の端を上げた。
そして。
ビニール袋の中身の。
ドリンクとお菓子を。
テーブルの上に置いていく。
志村さんが。
持ち込んでくれたジュースも合わせると。
一人当たり3本ずつ。
お菓子も。
ポテトチップ。
クッキー。
ポッキー。
チョコレート。
ベビースター。
さしずめ。
パーティーな装い。
「じゃあ、一度、情報を整理してみましょう。他にあの女性との会話で得られるものはありましたか?」
「えーと……」
私は。
志村さんとのやり取りを。
私の妄想も混ぜて伝えた。
「なるほど。百合と有里ですか。名字が偽名というのも……ありそうですね」
「ほんと?」
私はポッキーを摘まむ。
「まあ、見ず知らずの相手。ということもあるかもしれないですが、相手はゆうさん、すなわち女性でしょ?」
「ふん」
もぐもぐしながらうなずく私。
「あくまでも、一般的な見解としたら、偽名を名乗る必要性はないと想いますね」
「その心は?」
「本名を口にしたくない。もっと穿った見方をすれば、相手はゆうさんのことを知ってる。とか」
ぞわぞわと。
寒気が背筋を這う。
小さく身震いをして。
口の中のポッキーを飲み込んだ。
「まさか……」
「まあ、飛躍し過ぎですけど、ほら、芸能人とかでも、そうやってお忍びで旅をする事ってあるんでしょ? 特に、世間に知られたくない恋人同士とか」
「あっ……」
「あっ、これは失敬」
わしゃわしゃと。
髪の毛をかきむしるけんくん。
「いいよ。悪気がないって、分かってるよ」
「お言葉に甘えて。その志村さん。同じフロアなんですよね?」
「うん。201号室だったかな。部屋の作り、同じだって言ってた」
「ですよね。ツインルームですから、このフロアは、ということは……?」
「あっ……同伴者が、いるってこと?」
けんくんは。
大きく深くうなずいた。
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