向かい合う
ミルクティーを口に含んで。
真っ直ぐ志村さんを見る。
「私は、ランダムチャットが趣味なんです」
唐突に話題が変わったからか。
志村さんは眉をしかめた。
「ランダム……? ああ、世界中の見ず知らずの人と、おしゃべりするっていうやつ?」
「そう、それです。先日、チャットした人が日本人で、あっ、滅多に出会わないんですよ、日本の方って」
「ふーん。そうなんですね」
私は。
缶をテーブルに置いて。
少し身を乗り出す。
「それで、私、歴史オタクなんです」
「ん? ああ、歴史が好きなんですね」
「はい。それで、その方と歴史の話になって、なんというか、歴史に対する物事の捉え方とかが素敵で」
志村さんは。
頷きながら。
耳を傾けてくれている。
「色々、お話ししている中で、その方は、夕凪島を訪れてたみたいで、行ってみようかなって、来ちゃいました」
「フフフ、もしかして、その人に会いに来たの?」
志村さんは。
顔を突き出して。
含みを持った眼差しを送ってきた。
「え? 分かります?」
私が。
肩をすくめると。
うんうんとかうなずいていた。
「でも、どこの誰だかも知らないんです」
口を尖らせて。
ソファにもたれる。
「そりゃあ、そっか。でも、名前とか聞いてないの?」
「さすがに、本名は名乗りませんから。ファーストネームかニックネームが主流かな」
「じゃあ、探すのは至難の業だね」
「そうなんですよ。でも……」
顔の前で両手を合わせる私。
「でも……?」
志村さんは。
リンゴジュースに口をつける。
「普段、私はニックネームなんですけど、本名言ったんですよ。もちろん下の名前だけですけど」
「ふーん」
「そしたら、相手も名前を言ってくれたんです」
「へぇ。すごいかも。なんか、私までドキドキしてくる」
片手を胸に。
微笑む志村さん。
「まあ、本名かどうかは分からないんですけど……りょう、さんって」
自然と志村さんを覗き込む。
眉がぴくりと動いた。
ように見えて。
また。
瞳が左右して。
でも。
閉じられていた唇の口角が。
すーっと上がる。
「その、りょうさんていう方とは、どんな話をしたの?」
至って。
穏やかな口調の志村さん。
「え、ああ、それは……歴史オタクあるあるなんですけどぉ」
「あるある? どんなの?」
「歴史に興味を持ったら、ほとんどの人が、自分の先祖について、調べるんですよ」
「なるほどね。先祖か」
「そうなんです。それで、ちょっと家系図見てて、気づいたんですけど、もしかしたら、りょうさんと私の祖先は同じかもしれないって」
「へぇ……」
志村さんは。
そのまま。
宙を見据えた。
その瞳に。
翳りが差したように見えた。
「すごいなぁ、たまたま出会った人が同じ祖先ね。でも、どうして、そう想ったの? 同じ……ご先祖様かもしれないって」
「えーと、りょうさんが持ってた
ライターに、龍の模様が刻まれていたんです」
「龍……って、怪獣みたいなの?」
「はい。角があって、蛇の怪獣みたいなやつです」
私が顔の前で。
合わせた両手と体をくねくねさせると。
志村さんは。
ソファにもたれ。
お腹を抱えていた。
「それでですね、私の祖先は明治以前に、夕凪島で神主をしていたようなんです。その家紋。神社の場合は神紋って言うんですけど、それが似てたんですよ」
「へぇー。面白いね」
志村さんは。
リンゴジュースを飲み干した。
「だから、私のルーツを辿る旅も兼ねてるんです」
「なるほどね。どうなのかな? 何か分かったりしたの?」
「いえ、分かったような、分からないような……でも、りょうさんの龍の紋様を見つけたんですよ」
「ん? どういうこと?」
「小さな神社の社殿の裏に千社札が貼ってあったんです。だから、りょうさんも、そこを訪れたのかなって」
「千社札?」
「あっ、それは……」
ブー……ブー……
ん?
スマホのバイブレーション。
私のじゃない。
ポケットの中のスマホは大人しい。
志村さんは。
スカートのポケットから。
スマホを取り出した。
画面を一瞥して。
「もう、こんな時間。そろそろ戻りますね」
ゆっくりと立ち上がった。
つられて。
私も腰を上げ。
とっさに口を開く。
「あっ、あのよろしければ、連絡先交換しませんか?」
一瞬。
躊躇うように。
スマホを抱えた志村さん。
まだ。
聞きたいこと山ほどあるし。
けど。
ダメかな?
「あ、ええ、いいですよ」
「やったぁ! ありがとうございます」
深々と頭を下げて。
顔を上げると。
「里村さんは、面白い方ね」
志村さんは。
頬を緩ませ。
穏やかな瞳で。
私を見つめていた。
「そうですかね」
「少なくとも、歴史って過去のことでしょ。過去に囚われないで、歴史を楽しんでる。面白い話を聞かせてくれてありがとう」
「いえ……」
なぜか。
照れ臭くて。
肩をすくめた。
そんな私に。
目尻にシワを寄せて。
柔らかに微笑む志村さん。
その顔が。
どこかで見たことあるような……
ん?
ああ。
観音様に。
似てる。
そんな気がした。
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感謝しております。




