瞳
「じゃあ、けんくん。ハクトって、巫女の力を恐れる者……」
「たぶん。それと続きがあります。勾玉は三種の神器の一つとして知られていますよね?」
「うん」
「これも先輩の受け売りですけど、本来は、二つで一つの物。勾玉を二つ重ねると、円になり、陰陽のシンボルにもなります」
「うん、そだね」
「勾玉や神器はそれぞれ対があって、揃えた時に、本来の意味があると」
「なにそれ?」
「それ以上は教えてくれませんでした。ただ、当時の僕は……今でも子供ですけど、やり場のない怒りを先輩にぶつけることでしか、心を整理することが出来ませんでした」
「けんくん……」
ニコッと笑うけんくんは痛々しくて。
そんな。
けんくんは。
ポケットからスマホを取り出すと。
指先を動かして。
躊躇うように。
止まった指を引っ込めた。
画面を見つめる瞳は。
すごく。
優しく。
すごく。
哀し気に想えた。
けんくんは。
私を見て。
目尻を下げる。
「見てください」
腕を伸ばして。
スマホを私の方へ。
滑らせた。
「うん」
両手で。
そっと。
手に取る。
画面には。
制服姿の男女が二人。
言うまでもなく。
男の子はけんくん。
髪型も。
顔立ちも。
今と全く変わらない。
微笑ましくて。
目尻が下がる。
そして。
隣には。
ミディアムボブの女の子。
えくぼを浮かべて笑っている。
印象的なのは。
黒い瞳。
そう。
どこか。
吸い込まれそうな漆黒。
「それが彼女です。布津知栄里さん」
名前を読み上げた声は。
かすれ。
震えていた。
「きれいな子だね」
「僕には過ぎたる彼女でした」
過去形。
そっか。
今はいませんよって。
言ってたから。
会ってないのかな……
素朴な疑問が一つわいた。
「あのさ、琉唯ちゃんが、けんくんのことを心配してるのと関係あるの?」
「ああ、そこですか……妹は彼女に懐いてましたから、今でも、僕の恋人は、彼女以外は有り得ないみたいです」
苦笑いさえ空疎な趣に映る。
「なるほどね」
にっこり微笑む私。
きっと。
優しかったんだろうな。
琉唯ちゃんにも。
けんくんにも。
「ゆうさん。彼女を見て、何か気づきません?」
ん?
小首をかしげて。
もう一度。
スマホに視線を落とす。
んー。
彼女。
知栄里さんでしょ。
口を尖らせていると。
「ゆうさんと、同じ瞳してるんですよ。吸い込まれそうな」
「ん? え……?」
「まぁ、僕の印象ですけど、現に川勝先輩も、ゆうさんを紹介した時に、感づいたんじゃないかな」
「ん?」
「だから、僕らの調査のことに気づいて、さっきの電話でも、ゆうさんが一緒だから、ハクト追跡を止めさせた」
「へ? それって私が巫女の能力持ってるってこと?」
「いえ、違います。能力はともかくとして、その家系なのは間違いないと想います」
「そっか……」
まさか。
自分に巫女の話題が降ってくるとは……
あれ?
でも。
私。
今日会ったよ。
知栄里さんのように。
吸い込まれそうな瞳の人。
彼女も。
巫女!?
「ゆうさん。どうしました?」
「ああ、ちょっと、なんだろ。急に自分に降りかかってきたから、さすがにびっくりして」
私は腕を伸ばして。
スマホをけんくんに渡した。
「そうですね。ごめんなさい。あっ、あと少しで20時ですね」
「あっ。もう? じゃあ、私は部谷に戻るね」
「僕はここで、トマトジュース飲みながら。心と頭を整理します」
口の端を上げたけんくん。
「終わったら、連絡するね」
私は小さく手を振って。
席を立った。




