想い出の旅
「夏休みに入った7月の下旬。僕と彼女は。いつものように図書館で、歴史のことを語らっていました」
「うん」
「その時、彼女が、こう言ったんです。私は人の心が分かるの」
「え……!?」
口を開けたまま。
固まった私。
つい最近。
同じような経験をした身として。
一番驚いたかもしれない。
「どうしました?」
「ううん。その、人の心が読めるって、びっくりして」
「ええ。ですよね。僕も当初は冗談かと想ってましたよ」
「え? じゃあ、本当に?」
深くうなずくけんくん。
「彼女の母方の血筋。即ち家船だった祖先を遡ると、誰だと想います?」
「え? そんなの……」
ん?
けんくんが。
あえて聞いたのは。
私がその先祖の名を認識しているから?
だとしたら……
彼女は特殊な力を持つ。
巫女の系譜?
今まで巫女の名前なんて出てきたかな?
女性だったら……
!
「もしかして、五十鈴依媛?」
パチパチパチ。
手を叩いて。
微笑むけんくん。
「さすがですね。ゆうさん」
「ごめん、言ったもののまだよく分かってないかも」
「説明します。彼女の家柄はその女系が意味を持つそうです。何世代かに一人。特殊な能力。この場合、巫女と置き換えますが。巫女として生を受けると」
「ふーん」
「ただ、年代が下るに連れ、能力のばらつきや強さと言うのでしょうか、落ちてきてはいたみたいですけどね」
「そうなんだ」
「その時は、彼女の不安に気づけませんでした」
「ん?」
「力があると僕に打ち明けてくれたとき、当時の僕は信じきれていなかった」
「それは、仕方ないよ。いきなり超能力使えまーす。って言われても、信じてくれる方が稀でしょ」
「ええ、僕は、試しに心を読んで、今想ってることを言い当ててみてよ。そう言ったら……」
「ん?」
「とても、哀しそうな目をして、私を疑ってる、帰るねって、去って行きました」
「ん? え? なんでそうなるの?」
「まあ、彼女が口にしたことは、的を射ていました。けど、彼女の能力に関して、後で分かったことですが、実際にその人物に触れて、瞬間の思考の一部が分かるというものだったそうです」
「じゃあ……」
「彼女が僕に言ったことは、彼女自身が感じたこと。信じてもらえると想っていた相手に信じてもらえなかった……」
「そっか……」
「それから、彼女は図書館にも来なくなって、メッセージ送っても返信はありませんでした」
けんくんは。
大きくため息をついて。
グラスのまま。
残っていたトマトジュースを。
一気に飲み干した。
「二週間ほど経った夜に、彼女からメッセージが来ました。今話せる? って」
「うん」
「僕はすぐに電話しました。彼女は、2コールも鳴らないうちに電話に出て、ありがとうって、明るい声で」
「うん」
「彼女は、開口一番、声聞けて良かったって、すぐに、電話を切ろうとしました」
「……そう」
なんか。
嫌な予感がする。
女子のみんながみんなそうじゃないけど。
彼女の言葉がね……
「意味が分からなくて、どうしたのか食い下がったら……やばいかもしれない、私。あの人の見ちゃいけないものを見た気がするって、怯えた様子でした」
ごくり。
私は唾を飲み込んだ。
「僕は彼女が見たというものを、必死に聞き出そうとしましたが……けんくんは、知らない方がいいって、最後まで教えてくれませんでした……」
「……そっか」
「ただ、今、あの人たちが来てるって……」
「それって、川勝さんと……ハクト……」
「ええ……」
表情は。
普段と変わらない。
けんくんを装っているけど。
さっきから。
ずっと。
言葉の端々から。
感情が見え隠れして。
苦衷が滲んでいるのが分かる。
「結局、何も分からないまま。また、声が聞けて良かった……って、明るい声で電話が切れました……」
大きく深く息を吸ったけんくん。
「僕は、すぐに川勝先輩に連絡を取りました」
「うん。でも……」
「そうです。先輩が、彼女が言う、あの人という可能性も考えましたよ。ただ、少なくとも、僕という人間に彼女が何かを伝えたと知らせれば、仮に先輩が、あの人だとしても、バカなことはしないという計算もありました」
「すごい……」
「僕は先輩に彼女から聞いた話を告げ、大袈裟かもしれませんが、彼女を託しました……」
心の底から。
吐き出したような。
低い声が。
ため息と共に落ちた。
けんくんは。
お冷やのグラスをあおった。
まるで。
お酒を飲むように。
「それから2日後、先輩から、連絡がありました……彼女に異変があったと」
「異変?」
「何も喋らなくなったと……まるで、魂を抜かれたように」
「何があったの?」
「先輩の話では、当日の午前中、ハクトと蔵を訪れた時。彼女がそこにいたそうです」
「うん」
「先輩が声をかけると、会釈をして逃げるように走り出して、蔵から出て行ったそうです」
「それで」
「そしたら母屋の方から悲鳴が聞こえて、先輩が駆けつけたら彼女が廊下で倒れていた。母親の声かけに、すぐに意識は取り戻しましたが……」
声も肩も震えているけんくん。
「それ以降、彼女は……僕は……何が出来たんでしょう? 親に金を借りて岡山に行くべきだったのか……」
「けんくん……」
「ああ、ごめんなさい」
「ううん。無理しないで」
「まとめたつもりが、全然ですね、話慣れてないというのは……」
微笑むけんくん。
笑ってるのに。
泣き顔に見えて。
私は。
目一杯。
笑って見せた。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しています。




