省みる過去
「彼女と知り合ったのは、高校1年の時です。僕の地元は山梨なのは知ってますよね?」
「うん、教えてくれたからね」
「彼女とは、同じクラスで、席が隣でした」
「わぁ、きゅんだね」
組んだ手を顎に下に添える。
恋ばなは。
人の話のが。
すんなりときめきる。
気がする。
「ですか?」
「うん。気になる子だったら、毎日学校行くのが楽しみになる」
「なるほど。確かにそうだったかも……」
けんくんは。
目を伏せて。
ふっ。
って。
笑った。
「僕は見ての通りの歴史オタクでしょ。ある時、本を読んでたら、彼女の方から声をかけてきました」
「うわっ。それで、それで」
ぐっと。
身を乗り出す私。
「食い付き過ぎですよ」
「いいから」
「えーと……本は瀬戸内海の海賊をモデルにした歴史小説。彼女は私の祖先は瀬戸内の海賊だったんだよって。時代が違えばお姫様だったかもって」
「へぇー」
「話を聞いてみると、彼女は父親の仕事の関係で、春に岡山から山梨に引っ越して来たみたいでした」
「ふーん」
「祖先のことをきっかけに彼女も歴史に興味をもったみたいで、自分で先祖や海賊のことを調べてたみたいで」
「それで、意気投合したんだ!」
うわっ。
いいなぁ。
背もたれに寄りかかって。
腕を抱いた。
「ええ、そうなります」
けんくんは。
トマトジュースのグラスを手に。
ストローに口をつけた。
「それから、それから」
「いつの間にか一緒にいる時間が多くなって。放課後は毎日のように歴史の話をしながら過ごしていましたね」
「青春だなぁ。いいなぁ」
なぜか。
鼓動が早くなる私。
けんくんは。
グラスを置いて。
赤い液体を見つめていた。
「そして、ある時、彼女は宝物見せると言って、僕に祖先から伝わるという勾玉を見せてくれました」
「勾玉?」
「ええ、小指の先ほどの大きさの淡い緑の美しいものでした。それで、ふとその時に想ったんです」
「何を?」
「彼女のご先祖は、由緒があるんじゃないかって」
「確かに」
「僕の推察は当たってました。岡山の実家、正確には彼女の母親の実家には蔵があって、昔の資料みたいなのはあるって、教えてくれました」
「わぁ……」
「それから、僕と彼女の歴史の旅は続いて、彼女の曾祖母も家船の人々だったということが分かりました」
「そっか……だから、知ってたんだね。家船のこと」
小さくうなずくけんくん。
「まあ、そうですね。そして、1年の最後、春休みに岡山に旅行に行きました」
「一緒に?」
「まさか、高校生ですよ、まあ、彼女は家族で帰省、僕は一人旅でした」
「なるほどね」
「そこで、彼女の実家を訪れた時に、川勝先輩とハクトに会いました……」
「ん? どうして、川勝さんと、そのハクトは一緒にいたの?」
「まず、二人が彼女の実家にいたのは、蔵の資料を見せてもらうためで、その時は一週間ほど通っていたそうです」
「ふーん」
「川勝先輩の話では、ある調査の過程で、知り合ったようです。ハクトの方からコンタクトを取ってきたと話してました」
「ある調査?」
「ああ、そこに関しては聞いていません。嘘じゃないですよ」
「疑ってないよ。けんくんのことは」
「ありがとうございます」
けんくんは。
口の端を持ち上げた。
微笑み返す私。
「そんなんで、川勝先輩とハクトと話す機会があって、二人それぞれの視点や切り口は違いましたが、歴史に関する考察や視点は広く深く、まさに博識でしたよ」
「そうなんだ」
「そこから川勝先輩とは連絡を取るようになりましたね……ハクトは、踏み込まれるのを避けている。高校生ながら、そんな印象を受けましたね」
「そもそも、川勝さんとハクトが、彼女さんの実家を訪ねた目的って」
「川勝先輩は、ある一族の血統とか、結界に関する調査で、ハクトは、家船や海賊の調査だったみたいです」
「その話だと、川勝さんの方が怪しく感じるけど……」
「ええ。先輩は自分の調査のことに関しては口が固かった。今にして想うと、ハクトと行動を共にする理由がありません」
「うん」
「ただ。調査との関連性は不明ですが、二人との会話で、ある共通点がありました」
「それは?」
「巫女です」
「ん? 巫女って。神職の?」
「えーと、厳密には違います。古代の巫女。神との交信。神託とか託宣とか聞いたことあるでしょ?」
「うん。神様のお告げをする人だよね」
「ハクトの目的。おそらくは、そうだったのではないかと」
「だとしても」
「まあ、ゆうさん、話を聞いてください」
穏やかな声色だった。
「あ、ごめん」
「いえ……あれは、高校2年の夏休みの出来事でした」
宙を見据えたけんくん。
瞳の中には。
きっと。
その夏が。
よみがえっている。
そんな。
眼差しだった。
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