平常運転
部屋に戻ると。
けんくんはソファに座って。
ノートパソコンを開いていた。
「ただいま~」
「ゆうさん、お帰りなさい」
「けんくん、早かったんだ」
ベッドサイドにちょこんと座る。
体はポカポカを通り越して。
まだ。
熱い。
「いえ、ゆっくりしましたよ、ゆうさんこそ、随分長かったですね」
「ふん。そうだ、ちょっと聞いて」
「何ですか?」
こっちに顔を向けたけんくん。
私は浴場での出来事を伝えた。
「なるほど。それはすごいですね」
「だからさ、けんくん、後で部屋出て行って」
「え、ああ、分かりました。けど、言い方がなんか連れないですね」
「ん? 何を釣るの?」
顔を引きつらせたけんくん。
「失敬。ラウンジにでもいますよ」
「ありがとう。まあ、来てくれるか分からないけどね」
「確かに……そしたら、そろそろ夕食食べますか? 20時でしたよね、志村という女性と会うの」
部屋の時計は18時を過ぎたところだった。
「そうだね。そうしよ」
「でも、僕といるとこ見られたらまずくないですかね」
「そっか……でも、彼女まだお風呂だと想うし、それに……」
「それに?」
「ナンパされたことにする」
「は?」
けんくんは。
眉間にシワを寄せ。
甚だ心外とでも言いたげに。
口をパクパクさせた。
「とりあえずの、その場しのぎだから」
「まあ、構いませんけど……いずれにせよ、あまり味わっては食べれそうにないですね」
「うん。ごめんね。けんくんの話もあるのに」
「いえ、構いませんよ。要点まとめて話す準備は出来てます」
けんくんは。
口の端を上げ。
ソファから立った。
夕食は魚料理がメインだった。
お刺身はもちろん。
握り寿司もあって。
相変わらず美味しい。
魚をこんなに食べたのは。
人生で初めてかもしれない。
「そうだ。明日の帰りの時間なんですけど」
「あっ、そっか。明日帰るのか」
案外。
2泊3日って。
早いな。
出来れば。
あと2日。
いや。
3日いたら。
なーんて。
なんにも根拠もないんだけど。
でも。
じっくり。
夕凪島を味わってみたいと。
想う気持ちは本当だったりする。
「福田港を15時30分に出るフェリーに乗れば、21時には東京駅に着きます」
「うん。それでいいよ。けんくんのことだから、ぬかりはないでしょ?」
「まあ、あまり遅くなっても。ゆうさんしんどいでしょ?」
「うん。でも、明日で結論出るかなぁ……」
「彼のことですか? 先祖のことですか?」
「どっちも……は、贅沢かな……」
「いえ、現地……この島に来たからこそ分かったこともありますし、諦めずにいきましょう」
食後のデザート。
プチケーキと今日はプリンにした。
「それでは、ゆうさん。簡潔に参ります」
あの。
動揺振りが。
嘘のような。
普段通りのけんくん。
「こんなんでも、僕にも彼女はいました」
「ん? んん?」
さりげなく。
口にしたけんくん。
目をパチパチさせる私。
微笑んでいたけど。
瞳が揺れて見えたのは。
気のせい。
じゃないって。
気がした。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




