嵐の前の……
ホテルに戻り。
夕食までの間。
温泉に浸かることにした。
温かいお湯に包まれて。
体も心もほぐしてみてるけど。
どこか。
気は休まらない。
なんか。
あや取りが。
こんがらがっていくみたいで。
順調に想えた。
りょうさんとご先祖様の調査。
色んな事が分かったり。
分からなくなったり。
それに……
あの穏やかなけんくんの豹変ぶり。
そして。
微妙な空気を漂わせていた。
川勝さんを頼るような行動。
想像の域を出ないけど。
あの黒いバンを運転していた男性に。
けんくんも川勝さんも面識があって。
何かしらのトラブルがあったのかな……
とか。
いらぬ妄想をしてしまう。
曇ったガラスの向こうは。
真っ暗闇。
窓辺に腕をついて。
顎を乗せた。
ふと。
笑いが込み上げた。
おばあちゃんなら。
どんなにおかしくなったあや取りも。
「はいはい、じゃあ、こことここかなぁ」
何て言いながら。
何回かしてるうちに直してしまう。
「おばあちゃんすごいね!」
「柚葉だって出来るようになるよ。色んなとこから見てごらん。そして、たくさん失敗するのよ」
カラカラ……
浴場の扉が開いて。
女性が1人入ってきた。
私に気がついて。
軽く会釈する。
私も佇まいを直して。
小さく頭を下げた。
女性はかけ湯をして。
湯船に入ってきた。
そろそろ出ようかなって。
腰を浮かせかけた時。
ん?
鼻先をかすめた匂い。
この人……?
瞬く間に飛び跳ねる心臓。
でも。
ためらうより先に。
「こんばんは、ご旅行ですか?」
声を発していた。
「え? ええ、こんばんは」
突然話しかけられて。
驚くのは当然で。
女性は苦笑いを落とした。
「夕凪島、いいところですよね、あ、一人旅ですか?」
出来る限り。
言葉に。
明るく親しみを込める。
「ええ、まあ」
女性は。
ほつれた髪を耳にかけて。
少し顔を逸らした。
「奇遇ですね、私もそうなんです。あ、私は里村柚葉といいます。201号室に泊まってます」
「ああ……し、志村です」
はにかみながら応えた女性。
私は湯面ぎりぎりまで顔を近づけて。
女性を覗き込む。
「ああ、志村……百合です。私は……210号室」
「わあ、すごい偶然。同じフロアなんですね。あ、ここで出会ったのも何かの縁かもしれないですね」
「そうかもしれませんね」
女性が。
明らかに。
会話に乗り気ではない。
私は。
額に滲んできた汗を。
手の甲で拭う。
のぼせそうかも。
でも。
ここは踏ん張りどこだよ。
私……
「夕食まだですか?」
「ええ、まあ……」
「じゃあ、夕食ご一緒にしません?」
「え……?」
眉をしかめる女性。
「あっ、ごめんなさい。いきなり失礼ですよね。初めての旅行で、同じ一人旅の女性の方と出会えて、嬉しくて、つい……」
「いいえ、気にしないで下さい」
「あ、じゃあ、私の部屋でお話ししませんか? 少しでもいいので」
「え……?」
ガヤガヤと。
脱衣所の方から賑やかな声が。
漏れ聞こえてきた。
きっと。
あのおばさま3人衆だ。
嵐の再来……
「じゃあ、20時に私の部屋に来てくださいね」
私はスッと立ち上がる。
ちょっと。
クラっとした。
「いや、あの……」
「201号室ですから。そうだ、これから賑やかな台風3号が来ますから、気をつけて」
「え?」
呆然とする女性を残して。
私はそそくさと。
湯船から出る。
シャワーで上がり湯を浴びて。
浴場を後にした。
案の定。
脱衣所には。
おばさま3人衆がいたけど。
他のお客さんもいて。
被害を被ることはなかった。
鼓動はまだ収まらない。
我ながらよくやったと想う。
あの様子だと。
来てくれないかもしれないけどね。
でも。
とっかかりとしては。
上出来。
見かけたら。
声も掛けれるし。
私から押し掛けるのも。
最終手段。
それにしても。
志村百合さん。
かわいらしい人だったな。
スタイルも良かったし……
Tシャツの首元を引っ張って。
胸元を覗き込んだ。
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感謝しております。




