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巡る世界の中で  作者: ぽんこつ


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48/50

夕陽に向かって

寺務所がある広場まで戻ってきた時。

ブーン……

車のエンジン音が。

耳に届いて。

けんくんと顔を見合わせる。

どちらからともなく。

走り出して。

駐車場までの坂道を下る。

黒のステーションワゴンが。

角を曲がり。

山道へ消えたのが見えた。

けんくんが。

走りながら。

車のキーをかざして。

ピピっ。

応えた車に。

私は。

駆け足の勢いのまま。

物資かりそうになりながら。

ドアを飛び開けて。

助手席に座り込んだ。


シートベルトをして。

唾を飲み込んで。

息を整える。

「けんくん。落ち着いてね」

「ええ。そうだ、スマホ持ってて下さい。また、先生や先輩から連絡来たら出てもらっていいですから」

「あ、うん。分かった」

スマホを受け取ると。

「じゃあ、安全運転で参ります」

けんくんは。

口の端を持ち上げて。

ニヤリと笑った。


ガクンと。

体がシートに凭れて。

車が動き出す。

「県道までは、一本道でしたから。そこまでに追い付けなかったら。諦めましょう」

「そうだね」

駆け足の余韻を宥めるように。

オレンジジュースを口にした。

「念のためですけど、妹からの電話は決して出ないで下さい」

「ん? それってフリじゃないよね?」

グラッと。

揺れる車体。

「ゆうさん?」

「はい。ごめんなさい。仰せのままに」

膝の上に。

両手を重ねて。

ペコリと。

頭を下げた。

「結構」

やっぱり、

けんくんの妹の琉唯ちゃん。

気になるよなぁ。

まっ。

あまりいじるのは。

止めてあげよ。


行きよりは薄暗い山道。

木々の隙間から。

斜めに差し込む。

わずかな紅の陽射しが。

辺りをまばらに色づかせ。

紅葉の雰囲気を。

一足先に。

醸し出しているようだった。


車は慎重に。

坂道を下り。

目映い夕陽が。

正面に一時。

顔を出し。

家並みに隠れた。


フロントガラスの遥か向こう。

小さく見える。

黒のステーションワゴンが。

ウインカーを点滅させ。

右折して行くのが見えた。

「けんくん。あの車」

「はい。分かってますよ」

県道の手前で一時停止。

向かいの角銀醤油の駐車場から。

黒のバンが。

県道に入ろうとしていたけど。

パッシングをして。

私たちに譲ってくれた。

左右を確認したけんくんは。

片手を挙げて。

軽く頭を下げると。

ゆっくりとハンドルを切る。

私もペコリとお辞儀をした。


前方。

数百メートル先に。

目的の車は信号に捕まっていた。

「ついてますね」

徐々に距離が縮まって。

ナンバープレートを視認できるまで近づくと。

ステーションワゴンは動き出した。

「八王子ナンバーだね」

私はスマホに番号を打ち込む。

「八王子か。東京からここまで車で来たということになりますね」

首を捻るけんくん。

「ふん。それがどうかしたの? ていうか。八王子知ってるの?」

「ああ、山梨に近いですからね八王子。行ったことはありませんが。いずれにせよ、八王子からだと、かなりの距離です。ざっと考えても半日はかかりますよ」

「そんなにかかるんだ」

「恐らく。わざわざ車で来る理由は何かと想いまして」

「運転が好きとか?」

「アハハ、そうですね。僕らは車とは縁遠いですけど、車好きな人ならあり得るのかもしれませんね」

車は左折し。

国道に入る。


「でもさ、尾行ってワクワクするね」

自分が言い出したこととはいえ。

初めての感覚に。

気分が変に高揚している。

「僕はハラハラしてますが」

「ああ、けんくん、力抜いてね。見失っても、全然いいんだからね」

「ええ。ありがとうございます」

「なんかさ、刑事か探偵みたいだね」

「ドラマやアニメの見過ぎですよ。しかも、あの男性は少なくとも犯罪者ではないでしょ」

「まぁ、そうだけど」

「では、さしずめ。僕が助手で、ゆうさんが名探偵ですね」

ニヤニヤしているけんくん。

「なるほどね。迷う方の迷探偵ってことなんだ」

「僕が探偵でも、おんなじですよ」

いつの間にか。

内海湾沿いの道まで戻ってきた。

正面から照らす太陽に。

手をかざす。

けんくんは。

サンバイザーを下ろした。

「ホテルかどこかに戻るんですかね」

「実は、同じとこに泊まってたりして」

「なるほど。あり得ますね」

車は。

夕陽に向かって進む。

車窓を流れゆく。

山々や家々は。

ほのかに。

赤く染めあげられている。

峠を越えて。

瀬田町に入ると。

太陽は麻霧山に隠れた。


「あっ」

けんくんの声がして。

私の体が前につんのめる。

「ごめんなさい。大丈夫ですか?」 

「うん。信号か……」

視線の先に。

夕陽より赤い光が灯っていた。

夕凪島の道路は。

信号が本当に少ない。

ここまでも。

数えるほどしかなかった。

黒のステーションワゴンが。

どんどん小さくなっていく。

「しょうがないよ。でも、ちょっと楽しかったし」

「確かに、妙な緊張感があって、気分転換には、なりましたけどね」

けんくんは。

ルームミラーに手を伸ばした。

「考え過ぎだと想うんですけど」

「ん? なに?」

「僕らもつけられたり、してませんよね?」

「なんで?」

「いや、後ろの黒いバンなんですが、八王子ナンバーなんですよね」

「え……!?」

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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