遭遇
すらりとした体躯で。
整髪料のせいか。
髪が艶やかに光を受けていた。
ワイシャツが風を孕んで。
膨らんでは萎む。
「とりあえず、進みますよ」
「うん」
右側は岩の斜面。
左側は断崖。
道幅は。
大人二人がすれ違える程度。
下を覗き込むと。
岸壁の一部が。
段々になっていって、
下から上ってこれるようだった。
それ以外は。
木々のてっぺんが見えるだけ。
さすがに。
お腹がきゅっとなる。
高所恐怖症の人は無理かも。
視線を上げると。
すごい……
光をたたえた水面の内海湾を正面に。
夕凪島の山並みの大パノラマが広がっている。
あっ。
いけない。
けんくんの背中を。
そろそろと追いかける。
「こんにちは」
けんくんが。
男性に声をかけた。
「ん? ああ、どうも」
ややかすれ気味の。
聞き覚えのない声。
「観光ですか?」
「ええ、まあ……すみません」
「あ、これは失礼」
けんくんが。
斜面に寄りかかるように。
道を開けた。
男性の姿が見えて。
あっ。
ドキリ。
として。
腕を抱いた。
男性が近づいて。
慌てて。
私もけんくんの真似をして。
斜面に手をついて。
体を寄せた。
「すみません」
「いえ……」
すれ違いざま。
仄かに香る。
香水の匂いは。
細面な顔立ちとは。
似つかわしくない。
どこか。
動物的な猛々しさがあった。
去り行く男性の後ろ姿を眺めていると。
「ゆうさん。気づきました?」
耳元で。
けんくんが囁いた。
「うん。眉間のホクロでしょ?」
「ええ。断定は出来ないですけど、おそらく、畑先生や先輩の家を尋ねた人物ですね」
「そうだね」
ん?
けんくんの背後。
道の突端に石像がある。
「ねえ、見てあれ」
「ん? 何ですか?」
「波切……不動明王って彫られてる」
風雨に侵食され。
でこぼこしたお姿は。
長い年月。
ここに佇まれていた証。
斜陽を浴びたお顔が。
赤く染まって。
ん?
不動明王様は怒ったような。
怖い顔をされているのに。
なんか。
微笑んでいるようにも見える。
「すごいですね。こんな所に、お祀りするなんて」
けんくんは。
石像に近づいて。
その背後を覗き込んだり。
しゃがんだりして。
くるりと振り向いた。
「背後は奈落の底です」
「さしずめ、崖の上の明王様だね。でもなんで、こっち向いてるのかな?」
「ん? それは、お参りしやすいからじゃないですかね」
「あっ。そうか」
明王様が向いている方向には。
山があるだけ。
勝手に。
人や町を見守るのかなって。
想っていて。
先入観って。
ダメだね。
私は。
そっと。
手を合わせた。
「でも。西龍寺にしろ、ここにしろ、見晴らしがいいですね」
「ふん。船の動きとか分かるもんね」
「ほう。なるほど……」
「でも。さっきの人が、その、畑さんや川勝さんを尋ねた同一人物だとしたら。ここは意味があるんだよね」
「ええ。僕らの調査でも確固たる確証とまでいきませんが、ここも鍵となる場所でしょうから」
あっ!
思わず唇をかんだ。
私の好奇心が。
閃きを運んできた。
「ねえ。さっきの人、車だよね?」
「ええ、だと想いますけど。さすがにお遍路さんでもない限り、歩きでは来ないと想いますよ。それが?」
「後つけてみない?」
「は?」
口の形はそのままで。
呆気にとられたような。
けんくんは。
目をぱちくりさせている。
「その。どこか行くなら、ヒントになるかも」
探偵を気取って。
人差し指を突き立てる私。
「なるほど。でも、もう行ってしまったかもしれないですよ」
けんくんは。
男性が消えた。
道の先に視線を投げた。
「まあ、そうかもだけど。だから、車がなかったら諦めよ」
「なるほど。面白そうですし。善は急げです。行きましょう」
ぐいっと。
踏み込んできたけんくん。
「ちょっ、そんなに、急かさないで、危ないよ」
「あっ、これは失敬」
けんくんは。
バツが悪そうに。
ペタペタと。
おでこを叩いて。
顔をしかめていた。
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