発見
「じゃあ、ぼちぼち行きますか?」
「ふん」
最後に手を合わせて。
約束の木に。
頭を下げた。
ん?
顔を上げて。
飛び込んできた。
一枚の絵馬。
凝視して。
両手を胸に添えていた。
普段なら。
人様の代物に。
目を寄せることは。
しないのだけれど……
『亮の願いが果たされますように 有里』
「けんくん。これ見て」
「ん? ほう……」
「どう想う? あの女性かな?」
「それは、どうですかね。ゆうさんとチャットをしたのが、この字を書く亮という人物かは、今は断定出来ませんからね」
「そっか。そうだよね。気にしすぎだね」
「いや、気にしますよ。奇しくも、関係ある名前ですからね」
うーん。
気配り上手なけんくん。
白戸亮とりょうさんは。
別人だし。
りょうさんが。
亮という字を書くかは。
現時点では。
何も分からない。
ホテルのエレベーターで。
すれ違った女性の存在が。
書いたものかな。
なんて。
発想ならぬ。
妄想が膨らんだね。
ん?
もしかして。
白戸亮さんの方に。
関係した女性とか?
だったり?
大きく息を吐いて。
両手で軽く頬を叩く。
「よし! じゃあ、次行こう」
私は。
くるりと回れ右をして。
一歩踏み出した。
「ですね。少し急ぎましょう」
社殿の脇を横切る。
「ゆうさん! ちょっと待って!」
びくりと。
体が跳ねた私。
「え!? もう、脅かさないでよ」
振り返ると。
けんくんは。
社殿の一角を指差していた。
「ごめんなさい。でも、これを見たら、ゆうさんも分かってくれると想いますよ」
口の端を持ち上げるけんくん。
「自信満々だね」
私は。
一歩。
二歩と。
近寄って。
けんくんが。
退いてくれた所で。
両手を膝に屈みこむ。
顔にかかる髪を耳にかけて……
「あっ……」
社殿の地面すれすれ。
細い柱の一つに。
貼られていた千社札。
そこに描かれていたのは――
下向きの龍。
そう。
りょうさんのライターに施されていたもの。
その向き違い。
上向きの龍は。
家紋か神紋かは分からないけど。
私のご先祖様と。
関係のある印。
「りょうさん……ここに居たんだね……」
「おそらく。この紋様に関して、認知している人物は、限りがありますからね。それに……」
「それに?」
「この千社札。少し湿って、泥が付いたり、よれていますが、他の千社札と比べて、紙質自体はきれいです」
「そっか! 最近貼られたってことになる」
「ご明察。昨日よりも前ですけどね」
「うん。千社札って参拝した証しに、その神社とのつながりを大切にするためだっけ?」
「ですね。ただ、最近は文化財保護や景観を重視して。貼れる所は少なくなったようです」
「そうだね。ここも表側にはなかったし、裏側も数えるほどしかないもんね」
「失われつつある、日本の風情かもしれませんね」
私は。
そっと。
指先で。
千社札をなぞる。
所々。
波打っている。
少しごわついた質感。
目を凝らしてみる。
「これ。和紙かな?」
「ほう。見せてください」
けんくんと。
場所を入れ替わる。
すると。
けんくんは。
しゃがんで。
食い入るように。
千社札に顔を近づけ。
その表面を指でなぞる。
「和紙ですね。ゆうさんよく気づきましたね。さすがです」
「どうもありがとう」
「和紙の千社札か……」
「どうしたの?」
「いや……」
膝に手をついて。
ゆっくりと。
立ち上がるけんくん。
「この趣ある千社札を準備した彼。この場合の彼は、ゆうさんとチャットした人物です」
「ふん」
「当初、彼に抱いていた印象に輪をかける装いです」
「その心は?」
「白戸亮とは関係がない。むしろ似つかわしくないんですよ」
「そっか。私もそう想う」
「ただ……」
「なにか?」
「そうなると、僕ら……つまり、僕とゆうさん。そして、ゆうさんの意中の彼」
「けんくん。言い方。失敬じゃないよ」
「これは、面目ない」
「そうきたか」
「話、戻しても?」
「うむ。よきにはからえ」
「では……僕らは、ゆうさんの祖先。彼は自身の先祖にまつわる旅をしていますよね」
「あっ……」
「そう言うことです」
私たち以外にも。
調査をしている人物がいる……
私たちと同じように。
純粋な動機なのかな。
ザーッ、ザザザーッ……
山が。
枝葉を揺すり。
わめいている。
カラカラカラ……
背後で絵馬がどよめく。
冷たい空気の波が。
私の髪を唇に残して。
スカートを煽っていった。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




