表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巡る世界の中で  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/47

坂手神社を後にして。

来た道を戻りつつ。

坂手神社の奥の院を目指す。

港の駐車場へと続く道をやり過ごし。

商店街の外れ。

山の裾の斜面に沿って。

上へと伸びる坂道を上る、

左手の金網のフェンスの向こうに。

小さくなる町並みや。

徐々に広がる。

海や空。

山々が見える。

少し汗ばんできた肌と。

息切れを伴いながら。

私もけんくんも。

しばし。

無言だった。

坂道の終わり。

視野が開けた先は。

ブランコがあるだけの。

小さな公園だった。

「はあ。疲れたね」

私は両手で顔を扇ぐ。

「思った以上に高いですね。でも、景色はいいですよ」

額の汗を拭いながら。

けんくんは。

フェンスの向こうを指差した。


目の前に真っ直ぐ伸びる山々は……

頭の中で地図を思い浮かべる。

田浦半島。

半島の右手。

湖のような所が内海湾。

左手には坂手港。

そして。

瀬戸内海が柔らかな午後の光をたたえていた。

「休みますか?」

「ううん。奥の院行ってみよ。日が暮れちゃう前に、碁石山も行ってみたいし」

「そしたら……」

けんくんは辺りを見回した。

「あっちですね。行きましょう」

「はぁい」


けんくんの後を。

とことことついていく。

ブランコの背後。

林の中に伸びる道を進む。

土の匂いが濃くなって。

やがて。

苔をまとった石段と。

苔に覆われた鳥居をくぐる。


ちりん、ちりん……

季節外れの風鈴が。

出迎えた空間は。

木々に囲われ。

しっとりした空気が漂っていた。

ぽっかりと。

ここだけがひらけていて。

正面奥に木造の小さな社殿が。

ひっそりと佇んでいる。

社殿というよりは。

平屋の小屋のようにも見える。


ちりん、ちりん……

その軒先に吊るされた。

ガラス作りの風鈴が。

風を弾いていた。


社殿の背後。

空を覆うように。

枝葉を伸ばしたクスノキが。

まさに。

この一帯を。

守るように聳えていた。


まだらに差し込む陽射しがある分。

森の中だけど。

比較的明るい方だと想う。


そして――

空気が違う。

鳥居をくぐった辺りから。

そんな気はしている。

上手く言葉にならないけど。

清々しいというか。

瑞々しいというか。

緑に囲まれてると言えば。

それまでなんだけど……

「なんか、ひんやりするね」

「ええ。この感じ。西龍寺と同じじゃないですか?」

「確かに。厳かな雰囲気は似てるかも。なに? けんくん、霊感?」

「え? 急になんですか?」

けんくんは。

身震いをして。

キョロキョロする。

「そう言われたら……」

「なに?」

「誰かに見られてる気がしませんか?」

右に左に。

せわしく首を振るけんくん。

「え? 嫌だなぁ、けんくん、冗談やめてよ」

パシン。

思わず。

けんくんの腕を叩いていた。

「あ、これは失敬……」

腕をさすりながらも。

けんくんは。

周囲を気にする素振りを見せる。


私の中の。

いたずら悪魔が降臨。

「わっ!」

「ああっ!!」

サッと。

横に素早く飛んで。

私を睨むけんくん。

「もう、脅かさないで下さいよ」

「ごめん。でも、今の大声で、幽霊も逃げたかもよ」

「何を言ってるんですか? 行きますよ」

肩を払うよな仕草をして。

けんくんは。

歩き出す。

その動作が。

子供みたいで。

おかしくて。

私は唇を食んだ。


「でもさ、こういう空気感って、居心地がいいよね」

「ああ、確かに。まあ、神社仏閣自体が張っている、結界とかの影響もあるかもしれませんね」

「結界か。それって神社仏閣に限ったことじゃないよね? 町や村とか、家にだってあるでしょ?」

「さすがです。道祖神やお地蔵さんを村境に置いたり、家の生け垣や襖なんかも、結界の概念と捉えられますね……結界か……」

社殿の前で。

立ち止まり。

腕を組むけんくん。


じーっと。

その横顔を見つめてみる。

瞳は一点を捉えて動かない。

唇は真っ直ぐに結ばれている。

まさに。

思考モード。

けど。

すぐに。

ピクリと。

眉が動いて。

ゆっくりと。

こっちを向いた。

「ゆうさん、どうしました?」

膝が。

ガクッとなる私。

私じゃなくて。

けんくんでしょ?

「けんくんこそ、どうしました?」

けんくんの。

口真似をして返してみる。

「ん? それ真似ですか?」

「分かった?」

「ええ。地味に上手いのが、

絶妙で微妙です」

「神妙なる物言いなれど。奇妙奇天烈なり」

「ほう。これは、恐れ入谷の鬼子母神」

「ん? なにそれ?」

え?

と言う顔をしながら。

肩を落とすけんくん。

「いえ、お参りしましょうか」

「ふん」

ん?

うわぁ。

目の前の。

腰の高さほどの台の上に。

白木の賽銭箱が置かれていた。

実家にある救急箱よりも。

少し大きいくらいで。

なんとも。

かわいらしい。


お賽銭を入れて。

ご挨拶をして。

社殿をくるりと回り込む。

ん?

つんとする。

クスノキの匂いが鼻に触れた。

あれ?

これって。

あの女性の香水の匂いに。

似てる……?

「ゆうさん、どうしました?」

「ん? あの女性が付けていた。香水とクスノキの匂いが似てるかなって」

「ほう」 

けんくんは。

鼻を吸う。

「ダメですね。やっぱり、嗅痴です」

「うーん。それは面白くないかな」

「ですよね」


約束の木と呼ばれるクスノキ。

太く大きな幹に。

注連縄が巻かれ。

また。

何本もの綱も巻きついて。

そこに。

たくさんの絵馬や短冊。

千羽鶴なんかも吊るされている。

「いや、こっちは、面白いですね」

「そだね。ちょっと賑やかだね。この木だけ」

「じゃあ、絵馬つけますか」

「うん。そうしよ」


私は。

一番低い位置にある綱に。

屈んで絵馬を結わい付けた。

願いが叶ったら。

奉じた絵馬を。

外さないといけないみたい。

でも。

私の願いは。

一つ。

だけど。


りょう。

という響きしか分からない。

記憶の中の想い出だけの人。

そんな。

あやふやな相手とのことでも。

いいのかな?

『りょうさんに、会えますように 里村柚葉』


ザザーッ、ザザーッ……

ざわめいた枝葉が。

ひやりとした風を引き連れて。

光を散らす。

カラカラ……

カサカサ……

願いや祈りを揺らしていった。


お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ