見い出して。
亮さんが亮さんじゃない?
ううん。
落ち着いて柚葉。
整理しなきゃ……
『……もしもーし? 里村さん?』
「あっ、はい、ごめんなさい」
慌てて。
スマホを持っている。
右腕を抱いた。
『白戸という男。何か気になるの?』
「あ、いえ、昨日、お会いした郷土史家の先生のところにも、白戸さんという方が訪ねていたみたいで、同じ方かなって想っただけです」
『ふーん。なるほどね……』
『川勝さん、わざわざ、ご連絡ありがとうございました』
『いや、でも、あれだね。珍しい題材の調査に、奇しくも同じタイミングで島に来ている。何か因縁があるのかもしれない』
それまでの軽妙な語り口ではない。
何かを噛みしめるような物言い。
「そう。ですね」
『ああ、ごめん、ごめん。辛気臭いこと言ったね』
「いえ、大丈夫です」
『じゃあ、何か手伝えることあれば、遠慮なく連絡して』
「はい。ありがとうございます。失礼します」
終了ボタンを押して。
シートにもたれかかる。
「ゆうさん。大丈夫ですか? 顔色悪いですけど」
「え?」
頬に手を添えた私。
肌が冷たい。
「あのね、まだ、こんがらがってるんだけど」
私は。
スマホを差し出す。
「ゆっくりでいいですよ」
けんくんは。
受け取ったスマホを。
ズボンのポケットにしまった。
「うん。川勝さんを訪ねた亮さんは……別人だと想う。眉間にホクロなんてなかったし、体型の判断は人によるけど……痩せている感じじゃなかった」
「なるほど。それがさっきの確認ですか。となると畑先生の所を訪ねた人物も確認した方がいいですね」
顎をさするけんくん。
「うん。白戸亮という人とりょうさんが、別人って……」
あっ。
『松寿庵』で。
りょうさんと。
ニアミスした時。
香さんは。
また会える。
そんなことを言っていた。
けど。
存在は島にいるのに。
遠くへ行ってしまったような。
虚無感が私を包む。
りょうさん……
「ゆうさん、ちょっと一息いれましょ。そこの自販機で、ドリンク買って来ますから待ってて下さい」
「あ、けんくんごめん」
気配りは。
少なくとも。
私の中で天下一なけんくん。
「いえ、その彼は謎めいてしまいましたが、白戸亮という名の人物は、いったい何を調べているんですかね」
けんくんは。
置き土産のように。
言葉を置いて。
車を降りた。
バタン。
ドアが閉まって。
空気の波が。
頬を追い越す。
えーと。
川勝さんを訪ねた白戸亮さんは。
異端者、漂泊者、鬼。
これらに関する夕凪島の伝説の有無を尋ねていた。
それから。
家船のこと。
そして。
護龍神社。
もし。
畑さんを訪ねた人物が同じなら。
異端者と家船のキーワードは同じ。
でも。
畑さんは。
護龍神社のことは知らないと言っていたし。
聞かれたようすも覚えていないようだった。
えーと。
白戸亮さんが。
川勝さんを訪ねたのが一昨日。
昨日。
お会いした畑さんは。
確か。
先日訪れたと言っていた。
つまり。
先に畑さんの所を訪ねたことになる。
今までの発言を根拠にするなら。
その数日間という。
わずかな時間に。
護龍神社のことを。
どこかで入手したことになる。
けど……
夕凪島の歴史に詳しいとされる。
西龍寺のご住職でさえ知らなかったことを。
夕凪島で見つけることは可能なのかな?
ガチャッ。
バタン。
「どうぞ」
「ありがとう」
買ってきてくれたのは。
オレンジジュースだった。
本当にモテそうなのに。
それに……
「けんくんのこと、川勝さん褒めてたよ」
「は? いきなりなんです?」
飲みかけたペットボトルを。
口元に添えたまま。
固まったけんくん。
「川勝さん。けんくんの見識に一目置いてるみたいだった」
「なるほど」
ぐびぐびと。
喉を鳴らすけんくん。
「ふぅー。ゆうさんは。優しいですね」
「ん?」
「いや、今、それどこじゃないはずなのに、僕のことに気をまわしてくれて」
「別に気を遣った訳じゃないけど、忘れないうちに伝えとこうって想っただけだよ」
けんくんは。
ペットボトルのアイスコーヒーを一口含むと。
キャップを閉めて。
両手で握りしめた。
「僕の5つ上で、大学のOBです。知り合ったのは……」
視線を宙に投げたけんくん。
「もう……2年も経つのか……」
吐息を混ぜて。
うつむいたけんくん。
「いいよ。無理しないで。話したくないなら、それでいいし、少なくとも私は聞く耳持ってるから。その事だけは覚えといて」
「分かりました。そもそも、ゆうさんには、隠しておくつもりはなかったので、この一件が落ち着いたら話しますよ」
「ふん。承った」
クスッと。
笑い声を漏らしたけんくん。
「それで? ゆうさんなりに、整理出来たんですか?」
「ああ、たぶん……だけど」
「じゃあ、うかがいましょう」
背筋を伸ばして。
けんくんは。
首をかしげて見せた。
今しがた。
私なりに。
咀嚼したことを。
そのまんま伝えた。
「なるほど。面白いですね。ちなみに。畑先生の所を訪ねた人物も眉間にホクロがあったそうですよ。ドリンクを買ったついでに聞いてみました」
「そっか……さすがけんくん。抜かりはないね」
「どうも。一つ。いいですか?」
「うん」
「その白戸亮なる人物が、ゆうさんが示した数日間に、護龍神社という名前を知り得た可能性として」
「なに?」
「その時点で。護龍神社のことを知っていたのは、ゆうさん。りょうさん。僕ということになりますよね」
「あっ。そっか」
「まあ、あくまでも他に知ってる人がいないという根拠もなにもない前提ありきですけど」
「じゃあ、りょうさんから聞いたってこと?」
「僕を除外してくれて、ありがとう」
「当たり前田の……あれ? なんだっけ?」
「クラッカーですよ」
口の端を上げたけんくん。
「もしくは、盗み聞きしたか。白戸亮とりょうさんは……仲間かもしれない。可能性が出てきます」
「確かに。でも……」
「まあ、可能性ですよ。そろそろ行きましょう」
「うん。そだね……」
オレンジジュースを流し込む。
爽やかな甘さが。
さ迷う心を。
ほっと
宥めてくれるようだった。
ガチャッ。
ドアを開けたら。
淡い潮の香りが。
鼻を抜けた。
そっか。
隠すつもりはない。
か。
私。
信頼されてるんだね。
スカートを直していると。
ん!
そうだ。
川勝さんが話してたんだ。
えーと……
知り合いが面白いことを言っていたとか。
そんなことだったように想う。
「この島は何かを隠したり、守ったりするには適した地形と大きさだと。ね」
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




