停止。
「あっ、けんくん、スマホ返す」
ん?
プルル……
画面に目をやると。
『川勝先輩』
と表示されている。
「あっ、誰からです? まさか、妹……?」
「あ、ううん。川勝さんだけど……」
首をかしげながら。
スマホを差し出した。
けんくんは。
眉間にシワを寄せて。
顔をしかめた。
「ゆうさん出てもらえます?」
「うん。いいよ」
私は通話ボタンをタップした。
「もしもし」
『も……あれ? ごめんなさい、間違えました』
「あ、あの私です。里村です。葛城くん運転中でして」
『ああ、そうだったんだ、そうだよね、今時、掛け間違いは、そうそうないはずだしね』
「は、はい」
『じゃあ、君に伝えていいかな?』
「はい。何か分かったのでしょうか?」
『うん。分かったというほどでもないけど、面白いことには違いないと思ってね』
「面白い?」
『うん。親父を訪ねてきた人がいてね』
「お父様を?」
『うん。一昨日だったかな』
「その方は、どんな話をしていたのですか?」
『まあ、そう慌てないで。親父の話だと、いくつかの問いがあって。一つは島に伝わる伝説の類で、異端者や漂泊者にまつわるものはないか、鬼とかのことも聞いていたらしい』
「異端者……に鬼ですか?」
けんくんの視線を感じて。
顔を向けて。
目が合うと。
うなずいていた。
畑さんを訪ねた。
亮さんと。
同じ質問内容。
スマホを握る手に力がこもる。
『さすがの親父も知らなかったみたいで、ただ、鬼の伝説は高松沖に浮かぶ男木島、女木島に伝承があるのを伝えたらしい』
「鬼がいたのですか?」
口にして。
我ながら。
間抜けなことを聞いたと後悔した。
『ハハハ、面白い冗談だね。君も多少は歴史をかじってるんでしょ? だから、あいつと行動してる』
「はい……鬼という呼称は、時の権力に抗う勢力がいた。ということですよね」
パチン。
耳に届く。
弾けた。
指音。
『そういうことだね。それともう一つ。家船についてかな』
「家船……」
また。
けんくんと視線を交わす。
『ほう。家船のこと知ってるんだね』
「いえ、私は昨日はじめて知りました。葛城くんは知ってたみたいですけど……」
『確かに、あいつの見識には一目置いてるから、不思議じゃないな』
今の言葉。
お世辞じゃない。
実感が込められていたように想う。
けんくんを見て。
微笑むと。
はっ?
みたいな顔をして。
首をかしげていた。
『生憎、僕らも数年前に島に引っ越して来てから、そのような人々がいたことを知ったんだ。だから、この件に関しては、先方が期待したような話は出来なかったみたいだね』
「なるほど」
『そして、最後。これが重要で面白い』
川勝さんは。
全ての話を。
本当に楽しそうに喋る。
「はい」
スマホを添え直して。
意識を耳に集中させる。
『君が話していた、護龍神社という名を聞かれたようだよ』
「え……!?」
思わず飛び出た大声。
片手で。
口を塞ぐ私。
『ふーん。そこまで驚くということは、その名を知っている人は限られているのか……』
「あ、あのそれで……」
『ん? あ、ごめん、ごめん。親父も神社のことは知らなくてね』
「はい」
『ただ、親父は、後学の為にと、問い返したそうなんだ、その神社はどのようなもので、なぜ調べているのか? そして、どこの資料にあるのかと』
「なるほど」
『相手の回答は、夕凪島にあったはずで、詳細は言えない。ただ、一族の口伝という、具にもつかないものでね』
「はあ」
『親父が言うには、その訪問者。今思うと少し胡散臭かったようなんだ』
「ん? どういうことですか?」
少し。
言葉に棘が乗る。
分かりやすい私。
だって。
心の中では。
この訪問者が。
亮さんであるように感じているから。
あんなに知的な会話をした亮さん。
胡散臭いなんてある筈がない。
『一族の口伝ということ以外、自分のことすら、ほとんど話さない。どうも歯切れが悪い。まあ、さっきまでは、そういものかと思っていたらしい』
「何か、あったのですか?」
『それは、君のお陰なんだよ』
「ん? どういう……」
『今日、西龍寺の龍応住職を訪ねて、僕のことや家系図を見せたりしたでしょ?』
「あ、はい」
『ああ、島なんてねデジタルより、アナログ情報の方が早いから、気を悪くしないで欲しいかな』
「はい。分かります。私の田舎もそんな感じです」
『そう。なら良かった。それで、僕の名前を出したことで、君の話が出て、ある意味、本物の一族の人間は別にいたってね』
「でも、それだけだと、おかしなことじゃないような気がしますけど。その人が分家とか支流とか……」
『うんうん。いいね鋭い』
声が揺れて聞こえる。
本当に通話越しに。
うなずいているみたい。
「あ、ありがとうございます」
『それで、僕もね見せてもらったんだけど、その訪問者が差し出した名刺がね、名前と連絡先しか記されていない、肩書きのないものだったんだ』
固唾を飲んでいた私。
それって……?
ギアが上がった鼓動は正直で素直。
『名前は確か、しらとりょう。白に戸締まりの戸で、白戸。三国志に出て来る軍師の諸葛亮孔明っているでしょ?』
びくりと。
肩が上がる私。
やっぱり。
亮さん。
「あ、ええ。はい」
幾分。
声が上ずる私。
『その諸葛亮の亮で、白戸亮という男。30歳過ぎのいい大人が、人に話を聞くのに、素性を明かさないのが、引っ掛かっていたようなんだ』
「まあ、確かに……」
私も。
西龍寺のご住職に。
自分が出来る誠意を見せたつもりではある。
だからこそ。
ご住職も応えて下さった。
でも。
何か事情があるのかなって。
あっ。
亮さんの名前を呼んでいた。
女性のことが頭を通過した。
心でため息をついて。
あれ……?
今なんか。
おかしなこと言ってたよね。
川勝さん。
「あ、あのぉ。今、何歳位って仰いましたか?」
『ああ、30歳過ぎって、まあ、親父の印象だけど。僕よりは年上に見えたらしいよ』
「他に何か、その男性の特徴とか、聞いてますか?」
『ん? うーん瘦せていて、そう。眉間にホクロがあったって言ってたかな……』
はっ……!?
違う……
頭が。
鐘が打ち撞かれたように。
グラッとして。
真っ白になった。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




