まさか……ね?
「大丈夫ですか? ゆうさん?」
「ふん。落ち着いた。あのね、
亮さんとチャットしてた時に。猫の鳴き声がしたの」
「なるほど。でも、猫なんてどこにでもいますよ」
「そうなんだけどね。鳴きかたが似てるの」
「猫の鳴き声って、違うんですか?」
「そこまで、言われると自信ないけど、似てるんだよね」
「ああ、これは失敬」
「ううん。そう聞こえただけかもだけど」
「ミャア」
白猫は。
右手を舌で舐めながら。
顔を撫でていた。
「旅館の飼い猫ですかね?」
「どうなんだろ?」
「ちょっと、挨拶してきます」
「ん?」
けんくんは。
私に向けて。
微笑むと。
飛び石が敷かれた。
玉砂利の上を歩きだす。
「挨拶って、猫に?」
ジャリジャリと。
足音を鳴らす。
けんくんの後をついていく。
白猫はというと。
私たちを警戒する素振りも見せない。
呑気に顔を洗っている。
けんくんが。
白猫の前にしゃがむと。
その動きをやめて。
「ミャア」
甘ったるい声を出す。
私もけんくんの隣にしゃがみこむ。
白猫は。
チラッと。
私に視線を向けて。
まぶたを閉じると。
けんくんを見た。
「こんにちは、君はここの猫かい?」
「ミャア」
「名前はなんて言うのかな?」
「ミャア」
「ふーん。お手、出来る?」
けんくんは。
手のひらを差し出す。
「けんくん、犬じゃないんだから……え?」
ちょこんと。
白猫は右手を持ち上げた。
「君は賢いね」
白猫の手を握り。
上下に動かすけんくん。
「ミャア」
え?
私は何を見せられてる?
「じゃあ、元気でね」
「ミャア」
スッと。
立ち上がるけんくん。
「じゃあね、猫ちゃん」
「ミャア」
私にも愛想よく応える白猫。
首をかしげながら。
立ち上がる私。
「そしたら、行きますか」
けんくんの隣を。
ジャリジャリと歩く私。
「あのさ、猫と会話できたの?」
「ええ。多分」
「本当に?」
「気分的なもんですよ」
「超能力? とか?」
「ハハハ、さすがに違いますよ」
「そうだよね。でも、会話してるみたいだった」
「小さい頃、よく野良猫と喋ってたんで。でも、鳴き声に違いがあるのは気づかなかったですよ」
「え? ああ、そう?」
触れちゃいけない。
領域のような気がする。
猫の名前が聞けたのか?
気にはなるところだけど。
そっとしておこうかな。
道路に戻って。
コトン。
ボコン。
コンクリートの蓋の上を進む。
「どうします? ここで張り込みしてみますか? 予定通り夕凪島大観音に行ってみますか?」
「あ、うーん。坂手の方に行ってみない?」
「ふむ。なるほど。予定より早く行けますね」
「観音様は興味深いけど、亮さんが泊まっていたのは。ここのような気がするし」
「そうしたら、念のため、この先の、ゆるり夕凪の施設だけ、確認して坂手に向かいましょうか?」
「うん。分かった」
ポケットからスマホを取り出した。
13時50分。
「あっ。ちょっと待って」
私は小走りで道路脇に出て。
スマホを構える。
少しズームにして。
夕凪島大観音様の姿を。
カシャッ。
写真におさめた。
そして。
スマホをポケットにしまって。
両手を合わせた。
お参り出来なくて。
ごめんなさい。
ん?
でも。
観音様はどこを向いてるんだろ?
観音様が見ている方角は?
山々があるだけ。
まっ。
いっか。
両手を前に。
お辞儀をする。
ふわりと風が。
髪をさらっていった。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




