手がかり。ゲット!?
本堂から聞こえた読経が止んで。
数分後。
ご住職が本堂から出てこられた。
私とけんくんは。
息ぴったりで。
立ち上がる。
「お待たせしましたね」
「いえ」
「一つ。確認をさせてください」
「はい。何でしょう?」
「これは、里村さんの私的な調査として考えて良いのでしょうか? それとも、どこかに公表するお考えですかな?」
「あ、私の個人的な調査です」
「なるほど」
ご住職は、細めていた目を。
ほんの数秒閉じられた。
そして。
袖口に手を入れ。
引き抜かれた手には。
紙片が握られていた。
「こちらにお尋ねの件の、分かる範囲での回答を記しました」
「あ、はい。ご住職、ありがとうございます」
私は紙片を受け取りながら。
頭を下げた。
「生憎、この後、出掛けなければならない要件がありますので、失礼します」
ご住職は。
私とけんくんに。
一礼をすると。
母屋の方に向かって行かれた。
「ゆうさん。ここは車に戻って中を見ましょう」
けんくんは。
両目ウインクをする。
「そだね」
私はウインクで返すと。
手の中の頂いた紙片を見つめた。
四つ折にされ。
何枚か重なっている。
逸る気持ちを抑えつつ。
リュックにそれをしまった。
助手席に腰かけて。
いざ。
紙片を広げる。
「わっ……」
そこには。
毛筆の美しい文字が連ねられていた。
けんくんは上体をこっちに傾けて。
覗き込んでいる。
『簡潔に回答を記します。
護龍神社という名称の神社は、当方の資料には記載がありません。
夜見守神社に関しては、伝えるところによると、家船の一部の人々が信仰していた社の名であるとする話を耳にしたことがあります。
関連があるか、不明ですが、伊喜末地区、瀬田地区、坂手地区が家船の人々が最後まで残っていたようです。
比知という苗字の一族は、かなり古い時代に夕凪島に土着していたようです。
こちらも、夜見守神社同様、口伝の限りですが、吉備より至れり、比知なる者、伊喜末に流れ着く。
恭しく匿う姫と思しき女あり。
東へと向かい定住す。
ただ、神官であったという伝えはありません。
家系図を拝見して鑑みるに、護龍神社は元来、比知一族がお守りしてきた社で、夕凪島では、その名を使用していないのではないか。ご祭神に関しても同様で、表向きと本質とは違う可能性も考慮されるのが良いと思います。
重ねて、くれぐれも私の調査であるということ。
川勝京一郎くんの知り合いだということ。
そして、里村さん、葛城さんの人柄を見込んだ故のこと。
何卒ご留意下さいますよう、お願い申し上げます。
不破龍応』
「ふぅー」
「はぁ……すごいですね」
「なんか、分かったような、分からないような気もするけど。ご先祖様はいたんだね」
「ええ。ゆうさん気づきましたか?」
「家船のこと?」
「はい。それもありますが……」
ニヤリと口の端を上げるけんくん。
「はい。伺います」
「では、ゆうさんの一族と彼の一族は関係ありますね」
「ん? あっ!」
「そうです」
「亮さん、夜見守神社を知ってた……」
「そうです。それに比知、ゆうさんのご先祖様は吉備、つまり今の岡山県からやって来た」
「あっ! 亮さんが歌った童歌……」
「はい。そして、彼は家船を調べていた。家船の人々が残っていた地区と昔の八十八ヶ所の霊場から外れ廃社がある地区が一緒です」
「あれ? どこだっけ?」
真顔でガクッと。
ずっこけるけんくん。
「ゆうさん?」
「冗談だよ。たまには、私だってね」
「私だって? 何ですか?」
「何でもない。坂手地区でしょ?」
「ええ、そうです」
「でも、まずは……夕凪島大観音様と宿泊施設だね」
「では、いざ」
ハンドルを握るけんくん。
ん?
動かない……
「けんくん、エンジンかけて……」
「ハハハ……これは失敬……」
グー……
けんくんのお腹が鳴る。
「これまた、失敬」
車内のデジタル時計が。
11時11分を告げている。
「山降りたら、お昼食べよう。ちょうど、行ってみたいところがあるから」
「畏まって候」
「うむ。大義である」
「いざ」
エンジンをかけた車が滑り出す。
私は心の中で。
ありがとうございました。
頭を垂れた。
西龍寺とご住職に。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




