絶景の彼方
洞窟内はさらに涼しく、
少し身を屈めながら進む。
淡い電球に照らされた。
突き当たりの空間に出た。
そこには。
『龍水』
と書かれた案内板があり。
湧水だと記されていた。
「山の上なのに湧き水があるんだね」
チョロチョロと水が流れるかすかな水音が響く。
「ですね」
「どうしたの? けんくん?」
「あ、いえ……道こっちに続いていますね」
けんくんは。
突き当たりから。
右に直角に曲がる道を進む。
すぐに前方が明るくなり。
外へ出た。
陽射しが。
ぽかぽかして。
あったかい。
正面には階段の先に別のお堂がある。
おそらく。
下から見上げた。
岩肌から突き出ていたお堂。
左手はそそり立つ岩壁。
右手の階段を下りたら。
本堂の脇に行けそうだった。
「せっかくだから、そこのお堂上りますか」
「うん」
階段を上がって。
お堂には入らず。
廻縁に沿って歩いていくと――
眼前に瀬戸内海の絶景が飛び込んできた。
眼下には西龍寺の境内。
その遥か下には町や海岸線が見えた。
奥へと広がる海は。
銀色の光の揺らぎを湛え。
水面には米粒ほどの沢山の船が行き交い。
浮かぶ島々は青く霞んでいる。
その向こうには。
対岸の四国の山並みがどこまでも横へと連なる。
真っ青な空は果てしなく高く大きく。
その中に白い月がぼんやりと昇っていた。
「わぁ、すごい!」
「ですね。まさに島また島、海また海の景色」
「ふーん。そんな風に言うんだ。あっ、見て見て! ここからのがはっきり分かるね寝観音様」
「確かに……」
ん?
けんくんの反応がイマイチ。
「どうしたの、けんくん?」
欄干に手をかけたけんくん。
顔だけ私に向けて。
顔をしかめた。
「んー。 多分ですけど……あのご住職、知ってますね」
「ん? 何を?」
「ああ、確証はないんですけど。勘なのかな。護龍神社について聞いたとき、驚きもせずに、普通に聞き返したでしょ? 護龍神社ですか? って」
「そうだったかも。でも、普通なんじゃないの? それって?」
「かもしれないですけど、僕ならどんな字を書くのか、くらいは聞き返すかなって」
「なるほどね。じゃあ、仮に知っていたとして、答えない理由ってなんなのかな?」
「分かりません。ただ、川勝先輩が、あのご住職が知らなければ、余程のレアケースと言っていたでしょ?」
「ふん」
「だから、拍子抜けしたのか、もしかしたらなんて、都合のよい見解かもですけどね」
「あっ! だったら、比知という苗字を聞いた時も同じだったよ。珍しい苗字なのにあっさりしていた、ご住職」
「なるほど」
けんくんは。
すっと。
顎を伸ばした。
私も真似して見上げて見る。
目に映るのは。
画面越しの亮さんの姿。
何気ないやり取りが。
ふわりとよみがえる。
あっ……
夜見守神社。
護龍神社の別名。
亮さんは。
知ってた。
廃社になった神社を調べたことがあるからって。
「けんくん。ご住職にもう一つ聞いてみたいことがある」
「ん? 何ですか?」
「私の勘だけどね」
人差し指を。
こめかみに当てて。
微笑んで見せた私に。
けんくんは。
つられて。
ゆっくりと目尻を下げた。




