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巡る世界の中で  作者: ぽんこつ


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天空の寺院

駐車場から伸びる階段に呆気にとられた。

見上げた石段は。

両側に灯籠を並べて。

山門まで続いている。

その距離ざっと50メートルはありそう。

「けんくん。長いよ……」

「そうですね。長いですね……」

奥行きのある幅広の石段に。

ゆっくりと足を踏み入れた。


息を切らして山門までたどり着くと。

まだ、お化粧前の楓が出迎えてくれた。

振り返ると。

ここからも先程の絶景が拝めた。

「また、階段ですね」

「そう……だね」

日頃の運動不足が祟って。

一段上る度に膝がぷるぷるする。

西龍寺の境内は。

迫りくる岩肌と斜面の僅かな空間に。

横長に広がっているようだった。

鐘突き堂や母屋。

銅像や灯籠が所狭しと配されていた。

圧巻なのは聳える岩壁の頭上にお堂がへばり着くように突き出していた。

さらに。

境内の一番奥。

大きなクスノキの手前。

本堂と思しき建物は。

岩肌に嵌め込まれているかのようだった。

「なんか、凄いとこ来ちゃったね」

「ええ。天空の寺院の名にふさわしい佇まいです。夕凪島には、この手の山岳霊場が至るところにあるみたいですよ」

「ふーん。でもなんか、秘密基地みたいだね」

「へー。ゆうさんも子供の頃秘密基地つくったんですか?」

「うん」

「なるほど。ちょっとお転婆っぽいのは名残りですかね」

「そうですよ」

私は顔をしかめた。

「これは、失敬」 

けんくんは。

もはや悪びれずに。

本堂へと続く石段を上っていく。

私もその後に続く。


ガラガラ……

木製の引き戸を開けると。

線香や蝋の匂いが押し寄せる。

「いらっしゃい、よくお参り下さいました」

低音の澄んだ声が出迎えてくれた。

ご住職は小さなカウンターの向こう。

畳に座っておられた。

黒い作務衣姿に眼鏡をかけた。

文字通り坊主頭。

細めた目が優しく。

私たちを見つめていた。

川勝さん曰く。

夕凪島の歴史に一番詳しい方。

この人が知らなければ。

余程のレアケースだという。

本堂の中は空気が一段冷たい。

壁の一部は岩壁で。

洞窟の中みたいだった。


「おはようございます」

私は両手を前に頭を下げる。

「おはようございます、昨日お電話を差し上げた葛城ですけど」

「はい、お待ちしておりました」

目尻にシワを寄せて微笑むご住職。

本堂の奥に祭壇のようなものがある。

祈祷依頼の案内や。

数珠や教本なんかを展示している。

壁際の長いテーブルの上には。

小さなモニターが置いてあって。

夕陽や美しい瀬戸内海の景色がスライドショーのように映し出されている。

参拝客からの寄付なのか。

曼陀羅や龍の絵等が数点。

あちこちに飾られている。

「ご住職、早速ですが、護龍神社のこと何かご存じではありませんか?」

「護龍神社ですか? さあ、耳にしたことはありませんが、その神社がどうされたのですか?」

けんくんの肩が落ちた。

チラッと私を見たので。

私はうなずきを返す。

「あ、私のご先祖様が、その護龍神社の神主を、代々してたみたいでして、その自分のルーツを調べてるんです」

「ほう。そうでしたか」

少しの沈黙。


「あ、あのお参りしてもいいですか?」

「どうぞ」

「この、ろうそく200円というのはなんですか?」

「そこの燭台にろうそくを灯して、簡単なご祈祷を差し上げています」

「じゃあ、お願いします」

「あ、僕も」

カラカラ、ちゃりん。

「では、お名前を頂戴出来ますか?」

「私は里村です」

「僕は葛城」

ご住職は、正面の賽銭箱の後ろにある燭台にろうそくを2本灯した。

そして。

私とけんくん。

一人一人にお経を唱えて下さった。

その声のなんて耳心地の良かったこと。

なんか、懐かしいような。

なんとも言えない。

ほっとするような感覚を覚えた。


「あの、ご住職、僕の大学の先輩なんですが、白戸亮という人物が訪ねて来なかったでしょうか?」

「さあ、どうでしょう、お見えになられたかもしれないですが、葛城さんのようにアポイントメントを取られていたら、多少、記憶に残りますけどね」

「そう……ですよね」

吐息混じりに項垂れたけんくん。

「あの、ご住職、この龍の絵は何でしょうか?」

私は壁の絵を指差した。

「ああ。それは学生さんが持参してくださったもので、夕凪島の形が、その絵のような龍の形に見えたそうです」

「へぇ、面白い」

夕凪島の形か。

地図が頭に入っていないから。

なんとも言えないけど。

顔が真ん中の下の方にあって。

胴体が上に伸びてとぐろを巻いている感じ。

左右に翼のように広がった手があって。

それぞれ玉を握っていた。

私はさりげなく。

スマホでその絵を撮影した。

「龍に見えるというのは、珍しいですね。有名なのは、牛や鳥に見えるというものもありますよ」

「へぇ~、そうなんですね。なんか不思議ですね」

「ええ、面白いですね。人によって見え方、感じ方はそれぞれということでしょうね。他に何かございますか?」

「あ、あの、比知という苗字は聞いたことはありませんか? 比べるに、知識の知で、比知」

「比知さんですか。申し訳ないですね。お役にたてなくて」

「そうですか……」

私はため息を落とした。

「せっかく、お越しくださったのですから、こちらからお参りされていって下さい」

ご住職は、堂内の端を手で差し示した。

そこには人一人が通れる程の洞窟が口を開けていた。

「じゃあ、ゆうさん行きますか」

すっかり消沈している声のけんくん。

「うん。ご住職ありがとうございました」

ご住職は来た時と変わらない。

柔和な笑顔を湛えていた。


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