画面の向こう
『……ミャア』
イヤホンの奥で。
甘えるような。
でもどこか寂しげな声が鼓膜を震わせた。
あっ、
猫か。
「りょうさん、猫飼ってるんですか?」
『え? 猫? 飼ってないけ
りょうさんは不思議そうに首を傾げる。
画面の中の白い壁には、猫が隠れられるような隙間なんてなさそうなのに。
気のせいかな?
『野良猫かもしれないね。この辺多いみたいだから』
「……そうですか」
『ちょっと待って……』
「はい」
りょうさんが手を伸ばして。
映像が動く。
画面にはりょうさんの胸元のTシャツがアップで映っている。
からから……
扉を開けるような音。
ザーザーとノイズが入る。
風かな?
『分かりにくいかもしれないけど、どうだろ?』
姿なきりょうさんの声。
画面に映っているのは。
闇。
暗がりの中に。
何かが光っている?
んー。
ピントがボケて。
確かに分かりづらいけど……
ライトアップされているのか。
白くて。
細長い。
上下左右真っ黒で。
まるで宙に浮いてるよう。
そっか。
どこか高いところにあるのかな?
塔?
白く浮き上がる形が……
「観音……様?」
『へー。流石だね』
まだ、映像がぶれて。
からから……
音がして。
かたん。
ノートパソコンが置かれた。
モニターの中は白い部屋。
キン。
金属音が跳ねて。
『ふー』
りょうさんの吐息が聞こえた。
「お家から観音様が見えるんですね」
姿を現したりょうさんの口には。
煙草がくわえられていた。
紫煙がゆらりと立ち上ぼり。
煙草の先が赤く光って
目を細め、煙を吐く。
やばい。
かっこいい。
『いや、実はね旅先なんだ』
「そうなんですか?」
小さくうなずいたりょうさん。
だからか。
室内に何もないの。
煙草を燻らす、りょうさんの指はきれいだった。
『寝た観音様。寝観音という仰向けの観音様も見れるお寺があるらしいよ』
「へえー。面白そうなところなんですね」
『そうだ。歴女の柚葉さんなら、一度は考えたことあるでしょ? 自分の祖先のこと』
「え? あ、はい」
食い入るように画面を見つめてた私。
髪をすきながら。
姿勢をただす。
「調べたことありますよ」
『だよね。俺もね調べてるんだよ』
「そうなんですね」
やばい。
趣味まで合いそうなんだけど。
どうしようかな……
両手を足の間に挟む。
手のひらにじわりとわいた汗。
腿の冷たさがちょうどいいくらい。
「私の、母方の祖先は神主だったみたいです」
イヤホンが息を吸ったのを教えてくれて。
腕を組んだりょうさん。
椅子にもたれかかって。
宙を見据えている。
「りょうさん?」
『ああ、ごめん。そう、神主か。きっと由緒ある家系なんだね』
「いえ、今は普通ですよ。あの……りょうさんのことも聞いてもいいですか?」
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




