予感
「君、日本人?」
滑舌のいい、爽やかな耳心地の響きが返ってくる。
「あ、はい」
「驚いた、日本の人ともつながるんだ」
「ええ、珍しいですけど」
「ふーん。君はランダムチャットよくやってるの?」
「ええ、週に2、3回ですけど」
「俺はこないだはじめたばかりなんだ」
「あの、お名前聞いてもいいですか?」
「え? ああ、でも、特に話すことないから」
画面の向こうの彼の手がパソコンのボタンを押そうと動いた。
「え? せっかくですから少しでも話しませんか? 愚痴でもなんでもいいですし、私は柚葉っていいます」
彼は少し鼻で笑うようにして。
手を引っ込めた。
そう。
フルネームは名乗らない。
身元特定されちゃったりする可能性があるから。
私も普段はハンドルネームを使うんだけど。
画面の中の彼が気になって。
本名を言っていた。
「俺、愚痴言いそうな顔してる?」
キリッとした二重。
照明のせいが。
鳶色の瞳が薄く光っている。
「いえ、ごめんなさい」
「ああ、ごめん、謝らないで、俺はりょう」
「りょうさん」
「で、なに話すの? 俺の愚痴かな」
「いえ……あるんですか?」
りょうさんは、片手を顔の前で振る。
「そりゃあ、人間だからね。柚葉さん趣味は?」
「歴史が好きなんで、本読んだり、ドラマ見たりしてます」
「へえ。歴女さんか。世界史? 日本史?」
「主に日本史です。神社仏閣巡りとかしてますよ」
「なるほど、だから後ろの本棚に書籍がびっしりなんだ」
りょうさんは、画面を指差している。
ふーん。
よく見てるんだな。
私はりょうさんの背後に視線を送る。
白を基調にした空間。
壁には写真かな?
絵かな?
額に入ったものが飾られている。
んー。
何も分かんないな。
「りょうさんの趣味はなんですか?」
「旅行かな」
「へー。いいですね、羨ましいなぁ、どんなとこ行かれるんですか?」
「柚葉さんに近いかな」
「ん?」
「歴史のある。場所を巡ってる。まあ、歴史がないところはないんだけどね」
「うわぁ。すごい」
胸の前で両手を合わせて微笑む。
きらりと心に煌めく星たち。
めっちゃくちゃ。
りょうさんのことが気になりはじめていた。
ん?
なんだろう?
イヤホンを押さえる。
何か聞こえた気がして。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




