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巡る世界の中で  作者: ぽんこつ


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27/28

あらわなすがた

なんかひんやりする。

顔に触れる空気の冷たさで目が覚めた。

掛け布団を持ち上げて。

ぬくもりの中に潜り込む。

「はぁ……」

昨夜。

23時前まで。

ラウンジでけんくんと。

張り込みという名の待ち伏せをしたけど。

あの女性とは出会えなかった。

彼女が発した名前が。

私の知ってる亮さんとは限らないわけだけど。

もしかしたら。

恋人かな。

なんて妄想しちゃう。

すれ違い様で。

女性の顔は見れなくて。

覚えているのは。

背の高さと髪の長さは同じくらいだったこと。

ニットにジーンズという後ろ姿だけ。


掛け布団から頭だけ出してみた。 

室内はぼんやりと明るい。

枕元のスマホを手にして時間を確認する。

6時5分前。

まだ、少し眠いけど。

ゆっくりと体を起こす。

ひんやりと肌寒さが包む。

はだけた浴衣の衿元を直して。

ベッドから足を下ろした。

けんくんは。

隣のベッドで。

気持ち良さそうに寝息を立てている。

その寝姿に微笑みがわく。

横向きで。

掛け布団を抱き抱えている。

子供みたい。

そっと手で口を覆う。

ん?

そっか。

一応。

男の人と一夜を過ごしたわけね。

私は立ち上がって裾を直すと。

自分の掛け布団をけんくんにそっと掛けてあげた。

「さむ」

腕を抱えてさすりながら。

スーツケースの上に。

引っかけてあった。

カーディガンを羽織った。



窓辺に近寄って。

カーテンの隙間から外を眺めた。

「わぁ」

部屋が西向きだから。

日の出は拝めないけど。

雲一つない。

目覚めの途中の空が広がっていた。

濃いところもあれば。

淡いところもある。

夜と朝の境目の曖昧な青色。

水面は昨日とは打って変わって。

鏡のように滑らかで空を映しているかのよう。

そこに浮かぶ島々が遠くに幾つも点在していた。

背後から差し込む陽射しが。

向かいの山々を僅かに赤く染め上げている。

「きれい……」

近くの瀬田港には船尾にパンダの絵柄がついたフェリーが停泊している。

その向こう。

麻霧山の山頂近くが。

キラリと光っていた。

なんだろう?

でも。

凄いなぁ。

山育ちの私にとって。

目の前の盛り沢山の風景は。

衝撃と感動をもたらした。

「よし」

そろそろと洗面所に向かった。

用を足して。

顔を洗い。

歯磨きを済ませた。


けんくんは……

まだ寝ている。

こういう時は男の子に憧れる。

ギリギリまで寝てられるもんね。

私は肩を落として。

クローゼットにしまった服を取り出した。

パーカーとスカートでいいかな。

寒かったらカーディガン羽織ればいいしね。

着替えをソファの背もたれに掛けて。

帯をほどいて。

浴衣を脱いで。

軽くたたんで。

ソファに置いた。

ガサッ。

背後で音がした。

ん?

「ゆうさん、おはよう」

「ひゃっ!」

慌てて脱いだ浴衣で体を隠す。

けんくんは目を擦りながら。

ベッドサイドに腰かけている。

「早いですね、ゆうさん」

「けんくん! あと5分寝てて」

「え?」

こっちを見たけんくん。

一瞬、固まって。

そのままベッドに倒れ込んだ。

「僕は平気ですよ。何も見てませんから」

あわあわしながら。

私はトレーナーを頭から被る。

「けんくん。それ見ましたって言ってるのと同じ」

「あ、それは失敬」

「もう、失敬じゃないよ」

私はロングスカートを履いて。

ソファに腰かけた。

もう。

寝起きの顔も。

下着姿も。

見られたし。

「もういいよ!」

「ごめんなさい、ゆうさん、黄色とか忘れますから」

「けんくん!」

カーっと。

赤くなる顔。

「もう……」


ん?

僕は平気ですよ?

けんくんは。

ベッドから立ち上がった。

「んー。良く寝ました」

独り言のように呟いて。

何食わぬ顔で。

洗面所へ向かった。

水を使う音がして。

「おや。晴れてますね」

戻ってきたけんくん。

「あのさ、僕は平気ですよって、どういう意味?」

「ん? ああ、妹で見慣れてますから。ただ、ゆうさんが恥ずかしがったので。ちょっとびっくりして」

「ははは……そっか」

そこの免疫はあるわけね。

でも。

ドキッとくらいはして欲しかったり。

って。

魅力ないのかな。

って。

少し想ってもみたりして。

けんくんに求めてどーすんの。

ん!?

無造作に着替え始めるけんくん。

「ちょっと待って!」

スウェットのズボンを脱ぎかけて。

止まったけんくん。

「着替えるなら、言ってよね。けんくん」

「ん!?」

首をかしげて不思議そうなけんくん。

はぁ……

心でため息をついて。

私は立ち上がる。

スタスタと洗面所に逃げ込んだ。

扉にもたれかかった。

「いいよ。着替えて」

「はあ。あっ、これは失敬」

私が振り回されてる。

気がする。

苦笑いを落として。

肩をすくめた。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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